NHK放送センター近く、創業50年の老舗洋食店「れすとらん牛舎」(渋谷区宇田川町)が7月末で閉店する。
渋谷センター街の日本料理店「第二若葉」の支店として、1972(昭和47)年12月に開業した同店。NHK本部などの内幸町から渋谷への大規模な移転に伴い、関連会社が入居する新築ビルが放送センター周辺に複数建てられたうちの一つが、同店が出店する「第一共同ビル」。同ビルにはNHK職員の飲食を賄う受け皿として1階と地下1階フロアに食堂街が設けられた。「かつて1階は東急が運営する食堂、地下は天ぷらやすし、とんかつ、喫茶店などの飲食店が軒を並べる大食堂街だった。今ではうち1軒(笑)」と話すのは、同店オーナーの宮下清さん。
「1万人規模の移転で飲食店に大きな期待が寄せられたが、人間の心理とは不思議なもので、内幸町で育ったNHK職員たちは仕事が終わると、みんな懐かしい内幸町へ帰ってしまう。だから当初は思うように売上が上がらなかった」と言い、大手企業が経営する飲食店は早々に撤退を決めたという。「小さいうちは我慢しながら、毎日必死で商売を続けてきたら50年を経ていた」。今ではNHK関連の職員をはじめ、区役所や税務署、サイバーエージェントなど、周辺の施設や企業で働く人も増え、常連客を中心に毎日約200人が来店する人気店だ。
人気メニューは「ポーク生姜焼き定食」(ランチ1,000円、ディナー1,210円)をはじめ、カレーやハムカツ、カニクリームコロッケなど。創業から味を一切変えずに提供しているという。
閉店理由は、老朽化に伴うビルの建て替え。「建て替え後に1階に再出店してほしいと頼まれたが、年齢的に若い人材を育てる体力もなく閉店を決めた」と明かす。常連客からは惜しむ声が多数寄せられ、「終わる頃になって、このお店を私以上に思ってくれている人が本当に多いことに気が付いた」と宮下さん。
「『お前が偉くなったら、部下をここへ連れてくるんだよ』と上司から言われていた新入社員が、NHKの理事になり局長になり、定年退職している。ひと世代どころではない」と常連客らに思いをはせ、「仕事で疲れたり、楽しいことがあったり、悲しいことがあったりした時、ここへ来て憂さ晴らししたり、話したり、ご飯を食べたり、お酒を飲んだり……。『牛舎』という店名は、心の安らぎの場として『仮にとどまる住まい』という意味を込めているが、まさに我が家のような場所になれたのかなと思う」と50年の歳月を振り返る。
現在、閉店までのスペシャルメニューとして、「サーロインステーキ定食(サラダ・スープ付き)」(ランチ、ディナー共に1,600円)を提供している。
営業時間は11時~21時30分。通常営業は今月28日まで。