恵比寿で50年以上にわたり営業を続けてきた老舗イタリアン「コルシカ」が7月いっぱいで閉店する。イタリアンがまだ一般的な料理として市民権を得ていなかった当時。日本人の舌にも合う味付けや調理にこだわり、「コルシカ風ライスグラタン」などのヒットメニューを生み出してきた名店の閉店を惜しむ声が広がっている。
オーナーシェフは重本一夫さん。1970(昭和45)年7月7日、夫婦で店を創業した。1980年代に入ってすぐに一度ビルを建て替えられたが、およそ51年にわたり、駒沢通りに面した同じ場所で客を迎え入れてきた。重本さんは、今は現役を退き、「師匠」の味を受け継いだシェフたちが厨房(ちゅうぼう)に立っている。
店一番の特徴は、銀座のイタリア料理店で腕を振るっていた重本さんが独立・開業時から心掛けてきた「日本人が好む味付け」だ。「コルシカ風ライスグラタン」(1,500円)は、こだわりのホワイトソースの下にカレー風味に味付けしたご飯(ドライカレー)が仕込まれている。「店に来る方の多くが頼んでくださる店の『シグネチャーディッシュ』」(シェフの北村新さん)といい、オーナーが長年こだわってきた、注文を受けてから「いかに早く提供できるか」も「コルシカイズム」だと言う。
ニンニクを利かせたオリジナルのエスカルゴバターソースを使い、季節によってホタテやポルチーニなどに合わせてきたアレンジメニュー(1,200円~)も人気で、「玉ネギの甘みやニンニクが決め手」だというイカスミソースのスパゲティやリゾット(以上1,200円)も「自信を持って提供してきたメニュー」(北村さん)。食後は濃厚で少し苦みもある「カラメルのアイスクリーム」(500円)などの定番デザートも人気を博してきた。
席数20席の小さな店がつくってきた「伝説」もある。1980~90年代のバブル期には、クリスマスなどのピーク時に、入店を待つ客の列が100メートル以上先の駒沢通り・鎗ヶ崎(やりがさき)交差点まで続いた。「7回転はしていた。20席の小さな店だが、驚異的なこと」と北村さん。店の前に置かれているベンチも、行列が長すぎて「ベンチに座るまでが大変」という人気店ならではエピソードを象徴する存在だ。
閉店は建物の老朽化による建て替えに伴うもので、今年に入り常連客らを中心に閉店を伝えてきたという。閉店を惜しむと同時に再出店を望む声が絶えず、現在はコルシカイズムを継承するシェフらが「同じエリアで物件を探している状況」。これまでにも「のれん分け」に近い形で高円寺や三軒茶屋、県外では愛媛・松山でも重本さんの「弟子」たちが独立開業し店を構えており、北村さんらも独立の準備を進めているという。
客単価は、昼=1,000円、夜=4,000円~5,000円。緊急事態宣言に伴い、現在、アルコールは提供しておらず、席数も18席まで減らしている。7月いっぱいは営業を続ける予定。
営業時間は、ランチ=12時~14時30分、ディナー=17時~20時(変更の可能性あり)。