災害時に帰宅困難者を「一時退避場所」に誘導する「矢印サイン」の制作が3月4日、渋谷・神宮通りのJR線の高架(渋谷宇田川架道橋)下で始まった。
区の商店会連合会や渋谷駅周辺帰宅困難者対策協議会、観光協会、商工会議所、ロータリークラブなどで構成する実行委員会が渋谷区と共催する「シブヤ・アロープロジェクト」の取り組み。
2017(平成29)年に始まった同プロジェクトは、今夏に控える東京オリンピック・パラリンピックを機に、さらに増えることが予想される外国人を含めた多くの来街者に、渋谷区の一時避難場所(青山学院大学、代々木公園)の位置を認知してもらうのが目的。発災時だけでなく日頃から人々の注目を集めるような「アート性あふれる」デザインの「矢印サイン」を掲出することで、一時的に退避する安全な場所への誘導を支援する。
これまでに、渋谷キャスト(渋谷区渋谷2)前や、神南郵便局前交差点と宮下公園交差点をつなぐJR線線路の高架下など4カ所に「矢印サイン」を掲出している。
今回アートを掲出する高架下の一面には、既にアートディレクターの森本千絵さんが作品を描いている。その対面の壁面に掲出する作品を手掛けるのは、音楽と絵画制作を手掛ける伊藤陽一郎さん、瞳を描かない女性を描くことで知られるアーティストの大竹彩子(さいこ)さん、主に凹版印刷の一種「エングレービング」のような画風の作品を手掛けるNABSFさん、グラフィックアートユニット「エンライトメント」代表のヒロ杉山さんの5人。指し示す「一時避難場所」は代々木公園となる。
5日には現場でヒロ杉山さんが作業に当たった。作品は、黒い壁面にシルバーのストライプを描きマスクを表現した上に、アルファベットでかたどった矢印を黄色いスプレーで描く。
「世界中」という意味を込めたアルファベットは、さまざまな国の頭文字、人の名前、性的少数者を表す「LGBTQ」など、見る人が「自由に見つけてほしい」という。抽象的に表現したマスクの上にアルファベットを描くことで、現在はマスクの下に人々の顔があるが、「マスクの表に出たい」という新型コロナウイルス感染症終息の願いも込めた。
かねて「アートの力で世の中に役立つことができないか」と考えていたことから同プロジェクトに参画しているヒロ杉山さんは、渋谷区清掃事務所宇田川分室(宇田川町)外壁上部に設置されているチューブでかたどった矢印のサインも手掛けている。「普段は街を歩きながらアート作品として楽しんでいただけるが、災害時には役立つサインになる。アートは鑑賞するだけでなく、役に立つものにもなるということが伝われば」と期待を込める。
全アーティストの作品が完成するのは今月15日の予定。