渋谷区は2月3日、2021年度の当初予算案を発表した。
新型コロナウイルス感染症(以下新型コロナ)の収束が見通せず特別区税(住民税)などの減収が見込まれるとともに、このような状況の長期化も懸念されるなか、積み上げてきた基金を効果的に活用していく。一般会計歳入は994.5億円で前年度比5.5%減、約半分を占める特別区税は499億円で前年度比6.2%減を見込む。一般会計予算総額は994億4,900万円で、前年度比5.5%減の予算規模となる。
「何をやるにもコロナを意識しながら事業を考えている」(長谷部健区長)というなか、住民サービスの重点施策となる教育や福祉の面でも非接触型社会化の促進などを「スピード感を持って」対応していく。
新型コロナ対策に関連する経費は各事業合わせ33億円を計上。昨年7月に開設したPCRセンターの運営や感染症患者搬送用自動車購入などに加え、ワクチンに関する「具体的な情報が入ってきていない」状況ではあるが、区民が速やかに接種できるよう、集団接種の場合の会場の候補や医師の手配など接種体勢の確保にも動いている。
コロナ禍で医療機関での受診を控えたり相談する機会が減少したりしている人もいることから、オンラインでの健康相談も始める(1,400万円)。区の公式LINEで予約を受け付け、Zoomを介して相談できる仕組みを構築する。診療行為は行わないことから相談料は無料となる。
かねて推進しているLINEを活用した区役所への非来庁型のサービスは拡充を図る(1,000万円)。本年度、住民票の写し・住民票除票の申請、犬の登録、妊婦面接の予約などを実装したが、来年度は上記のオンライン健康相談に加え、国民健康保険の加入・脱退の申請などの追加を予定している。
新型コロナの影響を受け昨年は約3カ月区立小・中学校が休校した。区は2017(平成29)年9月から児童・生徒に一人一台タブレット端末を貸与するなどしているなか、休校期間中もオンライン学習などを行ってきたが、ICT(情報通信技術)活用の「さらなる」推進を図る(15億3,500万円)。学校間ネットワーク回線の増速、教育データの蓄積や分析などをするためのダッシュボードの構築などに加え、モデル校4校では、デジタル教科書の全校導入に向けた実証事業も始める。
非接触・非対面が増える中、今年9月には高齢者のデジタルデバイド(格差)の解消を図るための実証事業(3億6,500万円)を新たに始める。スマートフォンを持っていない65歳の区民を対象に、スマートフォン(最大3000台予定)を2023年5月まで無料貸与(通信料や通話料も区が負担)し、利用状況を個人が特定できない方法で収集・分析し今後の施策の検討などにつなげていく。貸与するスマートフォンには防災情報や健康アプリ、オンライン申請など区が推奨機能を搭載予定。
渋谷区は住民税を中心に運営していることもあり、住民向けサービスが主な事業となる。区内の事業者に金銭を配ることなどは「財政的にも厳しい」(長谷部区長)が、増えている空き店舗への対応が課題となっている。この空き店舗を活用した地域活性化事業(4,000万円)として、新しい出店者の誘致を図る。具体的には、商店街を中心にヒアリングや調査で現状を把握し、空き店舗の所有者と出店希望者のマッチングを行う。所有者には改修費の一部を助成するほか、出店希望者には開業に向けた改修費の一部や家賃に係る費用の一部を助成する。
新型コロナ関連以外での事業では、2017(平成29)年から取り組んでいる延長約2.6キロメートルある玉川上水旧水路緑道の再整備事業(2億2,600万円)では、来年度に基本設計・詳細設計をし、2022年度には工事着手を目指す。
昨年明治神宮が100年を迎えたことを機に、参道の一つである西参道と隣接する首都高速道路4号線の高架下の一部の再整備にも取り組む(2億1,000万円)。昨年、日本将棋連盟と相互協力に関する協定を締結していることから、高架下には将棋文化を発信し地域交流を行う施設を新設するほか、既存の公園は改修などを行う(2022年度施設整備予定)。西参道は、高架下空間と歩道の一体的整備や、参道に「ふさわしい景観」を創出。明治神宮西門は公共空間として整備する(来年度中に工事着手予定)。
スマートシティの推進(1億2,700万円)を図ると共に、5G通信インフラの整備として補助制度(3,800万円)を創設する。渋谷駅周辺や区が必要と認める区域を対象とし、情報通信基盤となる通信基地局や多機能通信基盤施設(いわゆる「スマートポール」)の設置を希望する事業者に整備費用の一部を助成。補助申請は4月から始める予定で、先着順に審査・交付を決めていく。補助金額は1者上限2,000万円。
かねて課題でもあった落書きに対しても予算(1億1,000万円)を付けて対応していく。東京オリンピック・パラリンピックが控える来年度は消去活動を拡大し、渋谷駅周辺や千駄ヶ谷・原宿などを対象に行い、2023年に区内全域の消去を目指す。
服部栄養専門学校と協同で給食メニューの開発や食育に取り組む「渋谷ワンダフル給食プロジェクト事業」(8,000万円)、重症心身障がい者や医療テックケアを要する身体障がい者へのサービスを提供する区内初の複合施設の整備(1億900万円)、昨年も注力したスタートアップ支援事業(1億500万円)なども計画している。