都市フェス「ソーシャルイノベーションウィーク渋谷(SIW)」で11月9日、都立代々木公園をエンターテインメント拠点に整備することを目指す「スクランブルスタジアム渋谷」プロジェクトの現状を含む「都市公園の未来図」を再整備するカンファレンスが行われた。
2018(平成30)年のSIWで明らかになった同プロジェクトは一般社団法人渋谷未来デザインが主体となり進めている計画。代々木公園のエリアは、かつては陸軍の練兵所、戦後はワシントンハイツという時代を経て、1964(昭和39)年の東京オリンピックで一部が選手村として活用された後、公園として再整備された。
プロジェクトデザイナーの金山淳吾さんは、公園が渋谷区の中央に位置するため「(区内の)どのエリアにもシャワー効果をもたらす可能性がある」とポテンシャルの高さを示し、再び東京でオリンピックが開催されるのに合わせ、「アップデート」することで区の活性化につなげたいと考える。
「これからの都市生活から見た代々木公園の再整備構想」として、デジタル化やコロナ禍で進むリモートワーク、オンラインライブ配信、フードデリバリーなどを例に、人々の生活の重心が「外から家の中に移ってきた」中で、都心を「感動=そこでしか味わない体験、五感で感じる体験・体感」を生み出す場にすることで、「都心部の価値を再定義することが必要なのでは」と説明する。
これから求められる「感動」のキーワードの一つとして挙げたのは「音楽」。デジタルデータで聴いたりDVDを見たり、オンラインライブ配信もあるが、「その場に行って空気に触れることや、食事をしながら感動を共有することなど、『総合体験』は街なかのライブハウスなどから生まれる体験と位置付ける。そのライブハウスをはじめクラブやミニシアター、飲食店などが集積する渋谷はその「感動を生む基礎インフラがある」とも。
3万人規模のスタジアムが誕生することで、ストリートからアーティストたちが生まれ、区内に点在するライブハウス、渋谷公会堂(LINE CUBE SHIBUYA)といったホール、国立代々木競技場第1体育館といったアリーナを経て、スタジアムでパフォーマンスをするという「成長体験」を渋谷で生み出し「聖地のような街づくりができたら」と構想を膨らませる。
公園全体の再整備のスローガンは「都市と人をつなぐシティパーク」。公園を中心に南北・東西のエリアとのつながりの強化、現在ある保育園を生かしながら遊具や広場を兼ねそろえるキッズプレーエリア、カフェエリア、宿泊・滞在機能、商業機能の整備を目指す。「集う」「出会う(出合う)」「育てる」「披露する」機能をキーワードに、サッカーなどのスポーツやエンターテインメントに出合う場であり、アスリート・アーティストたちが披露する場となるスタジアム、新しいカルチャーやサービスに出合え触れられる場所となる野外音楽堂、インキュベーションオフィスやイノベーションセンターといったワークスペースの設置に加え、ストリートパフォーマーたちも活動できるよう開かれた場にすることや、新たなサービスの実験フィールドとしての活用も検討する。
スタジアムや宿泊施設、商業機能、野外音楽堂などは織田フィールドやイベント広場などがあるB地区を中心としたエリアを計画。ケヤキ並木は「堂々とパフォーマンスができる」街路にし、通り沿いには店舗などを点在させる方針。同時に、都市フェスティバルを誘致するための基礎インフラの整備、野外音楽堂の騒音対策などの「機能強化」も進めたいという。
一方で、明治神宮に隣接し豊かな森となっているA地区の「豊かさや公園機能は維持」することに加え、インキュベーションセンターなどを高低差のある参宮橋エリアの駐車場につくるなど、課題解決と新しい機能実装の融合も考えている。
都市公園法や用途整備、高さ制限、日照問題など課題も多くあるが、都や国土交通省、地域住民らと対話を通じて「解決策を探りながら進められたら」と話す。
これまで公開討論や市民参加型ワークショップを重ねてきた。今年、署名などを集めて都に提出ことを考えていたというが、新型コロナウイルスの影響で「スタック(立ち往生)している」と言う。
長谷部健渋谷区長は、代々木公園について「(渋谷の)街の発展に大きい影響を及ぼしている場所なので、この先どういう風になっていくかはこの街にとって非常に重要なこと」と話し、「諦めるのではなくて、コロナを乗り越えた上で新しいエンターテインメントの聖地としてアジアの中心となるような、世界に誇れるものになるのでは」と期待を込める。