渋谷駅構内で40年にわたり営業してきた駅そば「本家しぶそば」(東急東横店2階)が9月13日、渋谷駅周辺の再開発に伴い閉店した。閉店時には同店担当マネジャーと店長がそろって店頭に立ち、「40年の長きにわたり多くのお客さまにご愛顧いただき、ありがとうございました」と感謝の言葉を伝えた。
改札からすぐの立地や、早ければ30秒以内にテーブルにそばが届けられるスピード感などから常連客も多く、平日には2000食を売り上げる日もある人気店の閉店が8月中旬、公式サイトなどで発表されると、ネット上などでは閉店を惜しむ声が続出。この日も最後の日に「食べ納め」をしようと訪れる客が途切れなかった。
東急グルメフロント(目黒区)が経営し、池袋や大井町、武蔵小杉など首都圏を中心に13店舗を展開する「しぶそば」の中でも、本店となる同店では多くの系列店で導入する券売機を使わず、レジでの注文・会計と同時にレジ担当者がマイク越しに厨房(ちゅうぼう)にオーダーを伝えるスタイルが特徴だった。常連客の中には、レジを担当するスタッフが「かーきーあーげー」などと独特のイントネーションで注文を通す様子など、味だけでなく「本家」ならではの「お決まり」のサービスを印象に挙げる人も多く、渋谷に立ち寄る際には「必ず食べて帰る」というリピーターが店を支えていた。
閉店の告知後、9月に入り感謝企画として、かき揚げや温玉、わかめのなどのトッピング「オールスターズ」をのせた「本家オールスターズ」(880円)や、ファンが多く特別に復活させた「明日葉天せいろそば」(850円)などの限定メニューを提供していたこともあり、来店客数や売り上げも右肩上がりの状況が続いてきた。閉店当日も朝から行列が続き、「本家オールスターズ」が一番人気、「明日葉天せいろそば」も次によく出たという。同社企画開発部販促・マーケティング担当マネジャーの大橋智洋さんは「9月以降、日に日にお客さまが増えて、感謝しかない」と話す。
1980年代から井の頭線改札外で営業していた駅そば「二葉」を前身とする同店は、1990年代にJR玉川改札を出て左手の現在の場所に移転し、2005(平成17)年の改装を機に「しぶそば」に改称したという歴史を持つ。店を構える旧「東急百貨店東横店」は今年3月に営業を終了し、東横店西館・南館は今後解体が始まり、玉川改札も今月25日の終電で閉鎖が決まっている。
この日は、20時の閉店を前に19時45分に入店を締め切り。普段の日曜は来店客800人弱のところ、1271人が店を訪れた。20時過ぎに最後の客が店を出ると、名残惜しそうに常連客らが店の周りを囲む中、しぶそば担当マネジャーの前村哲也さんと伊達翔店長が店の前に立った。
前村さんは「1980年の開業から40年の長きにわたり多くのお客さまにご愛顧いただいた」と振り返り、「多くの方に叱咤激励の言葉や励ましの言葉をいただいたことに感謝申し上げる」と口にし、最後は伊達店長と共に「ありがとうございました」と深々と頭を下げた。渋谷駅周辺での再出店については、「現時点では未定」としながらも、「またいつか渋谷の地で『本家しぶそば』を開業できるよう場所を探している。またいつか会える日を楽しみにしている」と再出店への決意もにじませていた。
店がシャッターを下ろした後、スタッフらを前に伊達店長は「一緒に働いてくれたこと感謝する。私自身4年間この店で働いた。回転の速い中で、なかなかお客さまと会話するチャンスもなかったが、毎日のように惜しむ声や励ましの声をたくさんいただいた」と、閉店が迫り訪れた変化について触れ、「しぶそばがこんなに愛されているんだと強く実感した。別の店舗に行くが、より愛される仕事場をつくっていきたい」と前を見据えた。
続いてあいさつした同社・山口聡一郎社長は「閉店が決まってから1カ月、皆忙しかったと思う。閉店特別メニューでオペレーションも大変な中、無事故でしっかりと多くのお客さまを迎えてもらった」とスタッフに感謝するとともに、「私自身も高校生の時、前の店舗の時からファンだった」と明かした。「昨日今日とツイッターを見ていて、ぜひ復活してほしいという声が多くあった」と惜しむ声も届いているといい、「皆さまの思いを聞いて、代替店舗を探さねばという思いがより強くなった」と決意を新たにしているという。
「いったん本家は閉店するが、この本家の魂、DNAは本家出身の皆や分家の皆たちがしっかりと引き継いでいってくれると信じている。代替の場を探すまでの間、この『日本一の駅そば』で働いたということを誇りに思って、これからの仕事に生かしてほしい。それまで頑張っていきましょう」と激励の言葉を贈った。