建築家らがデザインした公衆トイレが8月5日、渋谷区内に登場した。
日本財団(港区)が「THE TOKYO TOILET」として進めている同プロジェクト。クリエーティブの力を使い社会課題の解決を図る取り組みで、「暗い」「汚い」「臭い」「怖い」などのイメージから入りづらい状況がある公衆トイレを「誰もが快適に使用できる」ようになることを目指す。障がいのある人が「街に出にくい日本の様式を変えたい」という思いからスタートし、「その最たるもの」とトイレに着目したという。
当初は東京全体を考えていたというが、数が多く難しいと判断。包括連携協定を締結しているつながりがあることや、「東京の情報発信の中心」であると渋谷区での実施を決めた。2018(平成30)年10月に区と同プロジェクトに関する覚え書きを締結し進めてきた。改装費用は日本財団が負担し、今年設置する全7カ所の改修には約7億円掛かっている。維持・管理は日本財団と区、一般財団法人渋谷区観光協会が協定を結び行う。清掃は民間企業に委託し、これまでの1日2回から3回に増やすという。本年度から3年度は日本財団の助成を受け管理していく。
第1弾として完成したのは、恵比寿公園トイレ(渋谷区恵比寿西1)、代々木公園近くの代々木深町小公園トイレ(富ヶ谷1)、はるのおがわコミュニティパークトイレ(代々木5)の3カ所。恵比寿公園トイレを手掛けたのはインテリアデザイナーの片山正通(まさみち)さん。コンクリートの壁15枚を組み合わせた、「トイレでもありオブジェクトでもある」たたずまいに仕上げた。
代々木深町小公園トイレとはるのおがわコミュニティパークトイレは建築家・坂茂(ばん・しげる)さんが手掛けた。調光フィルムを貼ったガラス張りの建物で、誰も入っていないときはフィルムに電気を流すことでガラスが透明となり中が見えている状態になっている。個室内に入り鍵を閉めることで電気が流れなくなりガラスが不透明になる。「中がきれいかどうか」「中に誰も隠れていないか」という入るときの心配事を解消するデザインに仕上げた。夜間には「あんどんのように」照明が付く。
恵比寿公園トイレは、女性用=個室2室、男性用=小便器2つ・個室1室、「だれでもトイレ」1室。代々木深町小公園トイレとはるのおがわコミュニティパークトイレは女性用・男性用・「だれでもトイレ」1室ずつ。「だれでもトイレ」にはベビーベッドやオストメイト用設備なども備える。トイレの現状調査や設置機器の提案などはTOTO(福岡県北九州市)が協力した。
今月7日には、恵比寿東公園トイレ(恵比寿1、槇文彦さん)、恵比寿駅西口・JR線線路沿いの東三丁目公衆トイレ(東3、田村奈穂さん)の2カ所が利用開始となる。「タコ公園」として親しまれている恵比寿東公園には白を基調に「『イカのトイレ』として親しまれること」に期待を込める。東三丁目公衆トイレは「日本の贈り物文化のシンボル」である設計に着想した造形に仕上げるという。
今月31日には幡ヶ谷駅近く西原一丁目公園トイレ(西原1、坂倉竹之助さん)、9月7日には渋谷・明治通り沿いの神宮通公園トイレ(神宮前6、安藤忠雄さん)がそれぞれ完工し、以降は2021年に順次完工する。その他参画しているのは、伊東豊雄さんや隈研吾さん、藤本壮介さんら建築家、佐藤可士和さんらクリエーティブディレクター、Apple Watchのデザインを手掛けたことでも知られるオーストラリアのプロダクトデザイナー、マーク・ニューソンさんなど。NIGOさんは縁のある原宿エリアの神宮前公衆トイレ(神宮前1)を手掛けるほか、清掃員が着るユニホームもデザイン監修した。
日本財団の常務理事・笹川順平さんは「日本が誇るトイレを渋谷から世界に発信していきたい」と意気込み、「このトイレに来たくて(公園に来て)、トイレでワクワクしながら時を過ごしてから公園で遊ぶ、そういう順序の違いも生まれるのでは」と期待を込める。
今月10日にはプロジェクトのホームページも開設予定で、利用における注意や清掃状況なども公開していく考え。2021年夏までに全17カ所が設置完了となる予定。