再整備された渋谷区立宮下公園(渋谷区渋谷1)に、アーティスト・鈴木康広さんのパブリックアート「渋谷の方位磁針|ハチの宇宙」が設置された。
一般財団法人渋谷区観光協会、渋谷未来デザインとパブリックアートの普及を推進するデザイナート(港区南青山2)が協業した取り組み。鈴木さんは、ファスナーのスライダー型の船で水面を「開く」ことを試みた作品「ファスナーの船」、羽田空港で展示された「空気の人」など、水や空気、木など身近な素材をモチーフに作品を制作している。パブリックアートとして「伝わりやすさ」などから鈴木さんに制作を依頼した。昨年3月に打ち合わせを始め、11月ごろ、制作に取り掛かったという。
「渋谷のアイコン」「待ち合わせ場所」というテーマから作り上げたのは方位磁針をかたどったベンチ。南北に伸びる形状からミヤシタパークは「方位磁針の針のような場所」と考えた。加えて、「渋谷の」方位磁針として、直径約6メートルの方位磁針をかたどる空間の中央には、渋谷区の形のベンチを実際と同じ向きで設置し、その上に渋谷駅前の忠犬ハチ公像と同じく東を向いているハチの像を置き、座ることで渋谷区の方位を体感できるデザインに仕上げた。
当初ハチの像を置く予定は無かったが、あることで「よりここが渋谷だと伝わる」「ハチに会いに来たくなるのでは」と考え設置することに。亡くなり「星になった」飼い主の上野英三郎博士を見上げているイメージと広く空が見渡せることから、「人が空を見るきっかけになれば」と思いを込めて空を見上げている姿に仕上げた。サイズは駅前のハチ公像(高さ85センチ)より一回り小さい高さ60センチ。
鈴木さんは彫刻を専門としたアーティストではないが、「自分で作った方がいい」と石粉粘土を掘り原型となる像を作った。その後かたどりを行い、ブロンズを流し成形した。制作に当たり鈴木さんは渋谷に来街する度に忠犬ハチ公像を見に行き、自身が撮った写真やインターネット上から見つけた写真などを元に彫刻した。忠犬ハチ公像は天候や時間帯など日によって「陰影が変わる」と言い、「少し掘るだけで表情が変わってしまう。それが面白くもあった」と振り返る。
ハチの物語はアメリカでも映画化されるなど「世界中の人々に語り継がれる果てしない『宇宙』のような存在」と、銅像には6月の星座の穴を空け中に照明を付け夜間に点灯することで、ハチ公像の体に星座が浮かび上がるようにした。
ハチの像を作る上で忠犬ハチ公像の歴史も調べた鈴木さん。初代忠犬ハチ公像が戦時中の物資不足に伴い溶解されたことや、戦後の復興と平和の象徴として再建の話が持ち上がったこと、制作に際し彫刻家・安藤士(たけし)が初代ハチ公像を作った父・照の立像を溶かして使ったことなど歴史的背景や「いろいろな命が巡っている」ことを知ったと言う。主人の帰りを待ち続けたハチの銅像が戦後の復興と平和の象徴となり、現代では待ち合わせスポットになっているように、鈴木さんはパブリックアートを「先が見えない状況の中で物語が生まれる」存在と話す。
「近所の人やいろいろな国の人が一つのベンチに座っている姿が、渋谷という街がどういう場所なのかが見つかるヒントになるのでは。街も変わるし、人も成長する。定点撮影ができる場でもあるので、その変化を感じられる場になれば」と期待を込める。
開園時間は8時~23時(スポーツ施設は9時~22時)。12月29日~1月3日は休園。