「明治神宮ミュージアム」(渋谷区代々木神園町、明治神宮内)で7月10日、美術展「紫幹翠葉(しかんすいよう)」が始まった。
「明治神宮鎮鎮座百年祭」記念事業の一環として3月から開催している芸術と文化の祭典「神宮の杜(もり)芸術祝祭」の第2弾で、当初の予定より1カ月近く延期しての開催となる。
「紫幹翠葉」は、紫の木の幹、緑の木の葉という意味から「景色が青々としていて美しい様子」を表す。同展では神宮の森に「思いを寄せ」、自然や暮らしを対象に制作した現代アーティスト40人の作品を展示する。作品はそれぞれ、びょうぶや掛け軸、衝立(絵画)など日本古来の様式で仕上げている。
展示作品は、「いいことがたくさん起これば」という思いを込め、平安末期の絵巻物「信貴山縁起(しぎさんえんぎ)」の「延喜加持(えんぎかじ)の巻」で描かれている、病に伏せていた醍醐天皇のために剣を体につるして駆け付けた護法善神(ごほうぜんじん)を題材にした森村泰昌さんの掛け軸からスタート。
品川亮さんは、金地のびょうぶに明治神宮御苑・菖蒲田のハナショウブを「モダンに」描いた。平川垣太さんは、トラやウサギなど本来は捕食・被食関係にある動物たちが、清正井に集まり水を分かち合う姿で茶室の中では全ての人が平等という「茶会が持つ平和の美学」を表現した。笛田亜希さんは、明治神宮御苑で出合ったホンドタヌキをメインに描いたほか、背景の木々の合間からのぞく空で竜を表現している。かねて明治神宮を描いている能條雅由さんは、明治神宮の木々をアクリル板の上に金属箔で「再現」し、春日衝立の形式に仕上げた。光を透過し木漏れ日のように空間に影が映るようになっている。
ミヤケマイさんは掛け軸全体を制作。掛け軸の上下は雨を見立てた唐紙木版を刷り、一文字には四君子の一つ「ラン」をあしらい、長年水と土に漬けたスギを切り出した軸先を付けている。本紙にはカエルが乗った猫や、竜模様の水壺、そこには肉筆でショウブ(5月)、ツユクサ(6月)、ナデシコ(7・8月)を描いた。天明屋尚さんは、ヤタガラスをモチーフにしたびょうぶで、自身初となる抽象絵画風の作品になっている。金地のびょうぶと真っ黒なびょうぶが対になっている。写真家・川久保ジョイさんの作品は和紙に写真をプリントし、軸先にはカメラのレンズから着想したガラスを使っている。
展示のために特別に作ったという扇面型のパネルをキャンバスにする作品には30人が参加。石塚隆則さんは、植林するために大木を運んでいる人たちの姿を捉えた100年前の写真に感銘を受け、その様子を動物に置き換えて表現。1匹だけマスクを着けているのも印象的。清川あさみさんは刺しゅう糸やビーズなどで神宮の森を表現した。ナマイザワクリスさんは自身が「大きく影響を受けた」1990年代のファッション雑誌をモチーフに、全面に人を描くことで「人の杜」を表現した。ひびのこづえさんはバッグを模した作品で、持ち手やファスナーなどが付いている。
ミヤケさんは扇面作品も出品。墨地に銀箔で夕方になると明治神宮の森に現れるコウモリを描いている。末広がりの扇とめでたい生物とされているコウモリで100周年を祝福する思いも込めた。同じく笛田さんは、モノクロをベースに描いた神宮の森やその奥に見える新宿のビル群を背景に青い羽の「ルリビタキ」を描いた。
第1弾「天空海闊(てんくうかいかつ)」は、明治神宮内苑で初めてとなる屋外彫刻展。内苑に、名和晃平さん、船井美佐さん、松山智一さん、三沢厚彦さんの作品を展示している。展示は12月13日まで。
ミュージアムの開館時間は10時~16時30分。木曜休館(7月23日・30日は開館)。入館料は1,000円。9月27日まで。