渋谷を訪れた外国人観光客の多くが立ち寄る、渋谷センター街・井の頭通り沿いの和雑貨店「渋谷丸荒渡辺」(渋谷区宇田川町)が3月末で閉店する。
3代目店主は、元々電機メーカーに勤めるビジネスマンだったが、1997(平成9)年1月に店を継いだ渡辺欣嗣さん。祖父で創業者の渡辺荒蔵さんが終戦の年、1945(昭和20)年に現在の場所に呉服店として開業した。当時は円山町の芸者なども得意客だったという。渡辺さんが店を継ぐころには呉服店を取り巻く環境も厳しくなっており、得意先相手の商売から店の前を通るフリー客相手の商売への転換を考える中、日本人の文化を訴えられる物として、海外の人から見ればお土産、日本人から見れば小物を扱っていこうと考え、これまでの仕入れ先を変えず着物とも縁のある「和雑貨」に業態転換した。
店頭には所狭しと、さまざまなジャンルの約500アイテムが並ぶ。中でも売れ筋は下駄(げた)に代表される履物。足元は洋服のスタイルに限らず気軽にファッションアイテムとして楽しめるため、土産としても喜ばれるため、店頭で履物が占める割合も徐々に大きくなっていった。そのほか、「これぞ日本」的な柄の浴衣、和紙で作った鶴のピアスなどのアクセサリーなど。
当初は渋谷センター街を歩く若い女性がメインターゲットだったが、インバウンドの高まりとともに徐々に外国人観光客の比率が上がり、今では9割を占める。渡辺さん自身もヨーロッパなどに度々「逆リサーチ」に行き、訪問した海外の都市で「何が欲しいのか」と自問し、そこで感じたことを日本の品に置き換えて品ぞろえに生かしているという。レジ前には、各国から訪れた利用客が置いていったコインが並ぶ。場所柄、海外の有名人が訪れることも度々で、2002(平成14)年にはエルヴィス・コステロさんが黒い扇子を買い求めたという。
元々ビジネスマンだった渡辺さんは、働いていれば定年の60歳の節目を迎えることもあり閉店を決めたという。「オリンピックは日本の魅力を伝える節目。日本が世界のトップの観光都市と肩を並べるチャンス。そして、国際観光都市としての魅力を維持していかなければいけない。そのお手伝いをするのが私のミッション」と言う渡辺さん。今後については、「今まで培ってきた日本土産や外国人観光客への対応などについてのノウハウを伝えていこうと、何年か前から考えてきた。それが年寄りの役割。親しまれるじいちゃんとして、皆さんの相談に乗っていきたい」とも。
2012(平成24)年には店舗横に並ぶ自販機の1台を、日本土産を販売する自販機にした。オレンジ色に塗装した自販機の上部には「Jpn. SOUVENIR VENDING MACHINE」の文字。鶴をあしらったピアスや手拭い、ちりめんで作った金魚のストラップなどを販売する。閉店に伴い、この自販機も撤去されることになるが、もし渋谷の街で希望者がいれば無償で譲るという。たばこサイズのクリアパッケージに入るものであれば、自販機で扱うことができる。「塗り替えて自分のところのスーベニール(土産)を入れてもらえれば」と渡辺さん。
営業時間は11時~19時(土曜・日曜・祝日は13時~)。