原宿駅近くで50年以上にわたり営業してきた老舗洋菓子店「コロンバン原宿本店サロン」(渋谷区神宮前6)が2月16日、閉店した。閉店を惜しみ多くの人が詰め掛け、小澤俊文社長は「これほどコロンバンが愛されていたのを実感した」などと声を詰まらせ、目に涙を浮かべながら感謝の言葉を伝えた。
日本初の本格的なフランス菓子店として1924(大正13)年に創業した「コロンバン」が、銀座店などに続き1967(昭和42)年にオープンしたのが現在の原宿店。1954(昭和29)年からアイスクリームショップの居抜きを使いケーキなどを販売していたのが始まりで、当初は1階がサロンと工房、2~3階が創業者一家の住まいとなっていた。表参道のケヤキ並木を臨むれんが造りの建物や店名が書かれた赤いオーニングが特徴の建物は、建設当初ファサード中央にエントランスがあり、正面にケーキ類のショーケース、その両サイドに15席程度のイートインスペースを設けていたという。
明治神宮から近いこともあり1980(昭和50)年~1985(昭和60)年ごろには終夜営業をしていたほか、1981(昭和56)年に創業者の門倉國輝が逝去した際には、店内に祭壇を作り密葬を行い従業員や関係者らに加え、当時の総理大臣・鈴木善幸も献花に訪れたという。1980年代に同店の2階に工場を作り、同店で提供するケーキを製造。3階には本社を移転した。1992(平成4)に川口工場を新築すると同時に2階の工場も統合し、以降は2・3階に本社を構えていた。
店内では、ケーキ類の菓子やサンドイッチ、クロックムッシュなどの軽食を提供していたが、20年ほど前から食事メニューも拡充。かつては待ち合わせスポットとしてもにぎわい、「原宿ロール」「原宿焼きショコラ」など地名を冠した定番商品も提供するなど、原宿エリアを代表する老舗店の一つとして長年親しまれてきた。
閉店は、表参道と明治通りが交わる神宮前交差点の一角にあるビル「オリンピアアネックス」(神宮前6)を含む再開発事業に伴うもの再開発に向けた解体工事が3月に始まることから公式ホームページなどで1月中旬、同所での営業終了を発表した。閉店の知らせを受け、ランチ前などの時間帯に行列ができるなど、店を訪れる人も多く、売り上げはそれまでの約1.5倍に増えたという。来店客からの声も多かったことから1月末にはメッセージカードを用意してメッセージを募り、最終営業日までに約800通集まったという。店内には同時に、事務所移転に向けた整理の中で見つかった、開業当初の同店の写真などを飾るなどしてきた。
最終日となった16日の朝は雨模様だったが、オープン前から行列ができランチタイムには多くの人でにぎわった。日頃から利用している人をはじめ、ニュースなどを見て久しぶりに来店した人などが見られ、年代的には40代以上の方が多かったという。サロン利用と同時に菓子類を購入していく人も多く「かなり多めに用意していた」中、ショートケーキは13時に、その他のケーキも15時ごろには売り切れた。この日は16時までの営業だったが、通常の土日の3倍程度の売り上げになったという。
16時30分からは店内を開放し焼き菓子などを用意して誰もが自由に出入りでき写真撮影などができる「感謝の集い」を開催。18時20分ごろから閉店セレモニーを行った。現在、原宿エリアでの再出店に向け出店場所を探していることもあり、セレモニーでは「再出店へ向けた決起会」(萬場稔専務)も兼ね、社員たちから再出店に向けたメッセージが書かれたパネルが小澤社長に手渡される場面もあった。
約10年にわたり店長を務めた鈴木信之さんは「当時は毎日10万円にも満たない売り上げだった」と言い、「原宿ロール」の開発や屋上での養蜂事業、採れた「原宿はちみつ」を使ったスイーツ作りなど「原宿ブランドの構築」、ランチメニューの刷新などに触れ、「売り上げも数倍になっていた」と振り返った。青山あゆみ副店長は「(再出店は)まだ決まっていないが、その日に向けてご愛顧いただいているお客さまが、閉店する原宿サロン以上に心より楽しんでいただける店にするためのコンセプトや、料理、デザート作り、サービス作りに励んでいく」と意欲を見せた。
セレモニーには、原宿表参道欅(けやき)会の松井誠一理事長も駆け付け、「いったん閉店ということで大変驚いた。私の目に焼き付いている風景がまた一つ消えていくんだなと、大変さみしい」としつつ、「またここで素晴らしい仕事ができるように期待している。そういった意味では、おめでとうございます」とあいさつした。
小澤社長は創業者の門倉が原宿表参道欅会の前身となる「原宿シャンゼリゼ会」を立ち上げたことに触れつつ、「風俗営業、パチンコ店を入れないなどルールを作り、50年かけてこの街が出来上がった。一番の集大成の時にオリンピック・パラリンピックが開かれる。コロンバンこそが、世界の人々をこの場でおもてなしをすることが、創業者が考えていたことなのでは。それがかなわないことが一番の無念」と心境を吐露。約800通集まったメッセージを手に、「これほどコロンバンが愛されていた、育てていただいたのを本当に実感した」と声を詰まらせ、涙を浮かべながら感謝の言葉を伝えた。続けて「(再開発を)止めることはできない。それよりも、メッセージや皆さまの思いに応えることが私の仕事。一刻も早い原宿での再開を誓う」と力を込めた。
セレモニー終了後は、集まった客に同店の外観をプリントした絵はがきや同店で使っていたコースターなどを進呈したほか、キャラクターの「原宿みっころ」も登場し、最後の客を見送った。18時50分ごろ、小澤社長らが「ありがとうございました」とお辞儀するとともにシャッターが下ろされた。