渋谷マークシティ連絡通路内で公開中の岡本太郎の巨大壁画「明日の神話」の恒例「すす払い」が11月17日未明に終わった。9日・10日・16日・17日の4日間にわたり、延べ56人のボランティアが参加し、1年間に作品表面に付着した綿ぼこりや汚れを清掃した。
1954(昭和29)年3月1日、米・水爆実験で被爆したマグロ漁船「第五福竜丸」をテーマとした作品は、「日本版ゲルニカ」としても知られる大作。60年代後半にメキシコの新築ホテルのロビーに飾るために描かれたが、依頼主の経営状態の悪化により、ホテルは未完成のまま人手に渡ってしまい、作品の所在も不明に。30年以上を経て、2003(平成15)年9月にメキシコ郊外の資材置き場で発見され、岡本敏子さんを中心に「明日の神話」再生プロジェクトが発足。1年間にわたる修復作業の後、汐留や東京都現代美術館での特別公開を経て、2008(平成20)年に恒久設置先として「渋谷区」が決定し、同年11月17日に連絡通路での一般公開が始まった。
「すす払い」は一般公開の翌年に始まり、今年で10年目。毎年公開日の17日までに、NPO法人「明日の神話保全継承機構」を中心に作品の清掃と修復・補強作業を行っている。京王・井の頭線の終電後に幅30メートル、高さ5.5メートルの壁画に足場を組み、作品を列で全14ブロック、縦に上中下3ブロックの計42ブロックに区分け。清掃ができるのは始発までの約3時間のみ。1日約10ブロックずつのペースで進行し、総延べ時間は計4日間で約12時間に及ぶ。NPOの呼び掛けで集まった区民や地元企業で働く人々、太郎ファンらがボランティアとして参加し、右手に刷毛(はけ)、左手に掃除機を持ち、作品を傷つけないように注意を払いながら「綿ぼこり」を払い落とす作業を行った。
「明日の神話」修復プロジェクトに携わり、公開後も修復・補強に絵画修復家・吉村絵美留さんは「年々夏場の温度が高くなっていることに加え、今年は雨も多く、温度と湿度の影響から、例年になくほこりの付着が多い」と自然環境の影響を示す。ほこりの主成分は、1日30万人以上が行き来する「歩行者の衣類から出る化学繊維だ」と言い、「電車や歩行者の動きで、作品に振動が加わり静電気を発生させる。さらに冬場はコートやセーターから出た繊維が宙に舞い、絵に付着すやすいのだろう」と、その原因も明かす。
「こびり付いたほこりをそのままにすると、湿気を帯びてカビの温床になりやすい。毎年、ほこりを取ることは絵を維持することにおいてとても重要な作業の一つ。皆さんがこうやって来てくれるのは本当にありがたい」と10年目を迎える清掃ボランティアに感謝を込める。
再開発工事が進む渋谷駅の中で、全4日間にわたる清掃活動を終えた「明日の神話」は、一般公開から12回目の秋を迎えた。