白根記念渋谷区郷土博物館・文学館(渋谷区東4、TEL 03-3486-2791)で現在、同潤会アパートなど今は無き建築や富士講、道玄坂の発掘出土資料など、平成30年度に収集された新資料を紹介する「新収蔵資料展」が開催されている。
再開発や建物の老朽化に伴い、戦前から立つ歴史的な建造物が続々と姿を消している。今回の新収蔵資料展では、消えゆく建築を背景に渋谷の歴史を語る上で欠かせない「共同住宅」を主役に展示が行われている。「同潤会アパート」は関東大震災支援のため国内外から寄せられた義損金の一部を基金とし、都内を中心に複数建設された近代的な鉄筋コンクリート造の共同住宅。渋谷にも「代官山アパート」(1927~1996)、「青山アパ―ト(現・表参道ヒルズ)」(1926~2003)が建てられ、電気・ガスはもちろん、ダストシュート、水洗トイレなど、最先端技術を備える憧れの高級アパートとして知られる。当時の青山、代官山アパートの外観・内観写真のほか、西洋風のデザインを取り入れた「玄関窓格子」や「電気スイッチ」「コンセント」など、解体前に収集された貴重な資料を展示している。
同じく老朽化に伴う建て替え工事で姿を消したのは、宮益坂沿いにあった日本初の分譲マンション「宮益坂ビルディング」(1953~2016)。当時珍しかったエレベーターが設置され、エレベーターガールが同乗し操作を行ったという。同建物からは「エレベーターの階表示板」「郵便口」「ガラス製のトイレノブ」「玄関用照明」などを展示。
さらに渋谷駅桜丘口地区の大規模な再開発プロジェクトに伴い、昨年解体されたばかりのレトロモダンな木造アパート「ジュネス順心」(1938~2018)の「部屋の扉」や、「階段の手すり」「瓦」「壁画タイル」など、デザイン性に富んだ部材も展示。元々、大東亜共栄圏のアジアの留学生向けの学生寮として建てられ、渋谷では珍しい戦前から残っていた建築の一つ。解体前に東京大学・大月研究室が調査を行い、新たに制作された「東側立面復元図」「東西断面復元図(1-2階階段断面)」なども掲出している。
同館学芸委員の松井圭太さんは「開発の激しい渋谷では、目まぐるしく建物や店も変わっている。戦前から残る建物は珍しい。それを解体後も、いかに記録として残すかということが課題。写真はもちろん、一つの建築部材などから建物全体を想像できるものを見つけて保存し、後世に残していきたい」と消えゆく建築の資料収集の意義を強調する。
建築以外では「富士講」に関する展示にも力を入れ、富士登拝時の行衣や数珠、笠など貴重な資料を並べる。古くから富士山に対する信仰は「富士講」として庶民の間で高い人気があった。特に渋谷は道玄坂に「山吉講」、広尾に「山真講」、恵比寿に「山正廣講」など10講以上が組織され、「戦前までは大山街道(道玄坂・宮益坂)を中心に、夏の渋谷は富士登拝に行く白装束の人々であふれるほど、富士講の中心地としてにぎわった」(松井さん)という。
そのほか、道玄坂の再開発で発掘された土器やハチ公に関する新資料、22歳の若さで亡くなった大正時代の写真家・渡部亀太郎が撮影した人物や東京の風景写真なども展示している。
開館時間は11時~17時(入館は16時30分まで)。月曜休館。入館料は一般100円。8月18日まで。