大友克洋さんの人気作品「AKIRA」の世界が計50メートルにわたり描かれてきた「渋谷PARCO(パルコ)」(渋谷区宇田川町)の仮囲いアートが、7月上旬から順次、撤去されている。
2016(平成28)年8月に一時閉店し、建て替え工事が進められてきた渋谷パルコの仮囲いに同作のティザービジュアルが初登場してから2年以上。街のにぎわいを創出するエリアマネジメントの一環として、仮囲いを「アートウオール」に見立て展開してきた、建て替え期間ならではのプロジェクトが幕を閉じる。
最初のビジュアルは2017(平成29)5月に掲出。渋谷パルコ再オープンの時期とも重なる2019年の「ネオ東京」を舞台に描く「AKIRA」のイラストを起用し、それまでにも大友さんと共同制作を行ってきたコラージュアーティスト河村康輔さんとコラボレーション。「A.D.2019」の文字と共にバイクにまたがった主人公・金田正太郎の姿など2カ所にティザービジュアルを掲出した。
同年10月には、正式な第1弾作品として、ペンギン通り沿い(横30メートル×縦2メートル)、公園通り沿い・左手(同約4.2メートル×同約1.8メートル)、公園通り沿い・中央(同約10.6メートル×同約1.2メートル)、公園通り・右側(同5メートル×同約1.2メートル)と、計50メートルにわたり、巨大なビジュアルが出現。
続く第2弾は昨年5月、「破壊」をテーマに、それまでと同様に巻・順不動でコラージュされた作品がアートウオールを飾り、今回撤去される第3弾作品は今年2月から掲出。当初は何も見えなかった仮囲いの中には、10月中にも完成する建物が大きくそびえている。
ウオールの発案者で、かねて「AKIRA」のファンだったパルコエンタテインメント事業部・コンテンツ展覧会チーム課長の小林大介さんは「いつか何かのかたちでAKIRAの企画を提案・実施したいとの思いがあった」と振り返る。
「ただの企画展の提案はできないと思っていたところ、2019年に渋谷パルコがリニューアルオープンすること、渋谷が100年に一度の大変革といわれるスクラップ&ビルドの時代の局面であること、というパルコ(個)と街(公)の2つが、AKIRAの描いた時代や状況とシンクロ・符合したと思った」と構想をつくり上げていき、親交のあった河村さんに企画を相談。大友さんにも提案が伝わり、実現に至ったという。
AKIRAが描く「ネオ東京」は、新型爆弾により荒廃したものの、オリンピックを翌年に控え、再開発工事が進む2019年が舞台。「新たな物語が生まれたり、鑑賞者に物語が委ねられたりすることが今回のアートの意味」だったことから、どのパートからも見ることができたアートウオールは、「3期を通して新しい物語が作れればという表現。コラージュにより物語を組み直し現代に更新させる試みだったのでは」と、これまでコンセプトを明言してこなかった大友さん、河村さんに代わり見解も示す。
掲出期間中、さまざまな反響が寄せられた中、「世界的なラッパー・カニエ・ウエストさんがプライベートで来日した際に大友さん、河村さんと会いたいとの相談が入り、奇跡的に皆さんのスケジュールが合いアートウオールの前でみんなで記念撮影をしたことは驚きだった」と話す。「現在もLAで同様の『AKIRA ART WALL』プロジェクトとして展示が行われている」と、企画が世界に広がっていることを実感しているという。
アートウオールのコラージュ作品は昨年、カレンダー化し一日限定で発売したが、「今後の企画は検討中のため未定」という。
渋谷パルコは11月下旬に開業予定。