東急電鉄などが5月8日、東急線沿線の駅券売機で銀行預貯金の引き出しができるキャッシュアウト・サービスを始める。
2015年に始まった「社内起業家育成制度」の第3弾案件として提案されたもの。スマートフォンアプリで事前に引き出し金額を申請し、表示されたQRコードを券売機の読み取り機にかざすことで提携銀行の預貯金を引き出すことができるサービス。日本初の取り組みとなる。昨年7月に開発を発表し、年度内に沿線の一部券売機で実証実験を行い今回正式にサービスを始める。
キャッシュレス化の動きが加速する中、現金の流通が無くならない限り「現金の必要な状況は生まれる」(プロジェクトリーダーである八巻善行さん)中で、現金を手にしやすい環境整備や安心感が必要と考えた。同時に、ICカードの普及により10年ほど前のピーク時から利用率が約半減しているものの「無くすことができない」券売機を有効活用することで駅の利便性向上を図る。八巻さんは「生活動線上にある駅が最適なのでは。券売機は必ず駅改札付近にあるので場所の把握がしやすい最高のツール」と話す。
開発は、GMOペイメントゲートウェイ(以下GMO-PG)、横浜銀行、ゆうちょ銀行と共に行った。GMO-PGと横浜銀行が2016年に共同開発した、銀行口座とスマートフォンが連動した決済サービス「銀行Pay」の基盤システムを活用。券売機とシステム(API)を接続することでキャッシュアウト・サービスを実現した。横浜銀行のスマートフォン決済サービス「はまPay」、ゆうちょ銀行のスマートフォンアプリ「ゆうちょPay」で利用できるようになる。
利用者はいずれかのアプリから「キャッシュアウト」ボタンを選び金額を選び、暗証番号を入力するとQRコードが発行される(有効時間は5分)。券売機のタッチパネル上の「QRコード・バーコードを使う」または「その他」から「キャッシュアウト」を選択し、券売機右下のQRコード読み取り部分に、発行されたQRコードをかざす。ディスプレーに表示された引き出し金額や手数料を確認後、現金が出てくる。利用明細の発行も可能。
引き出せる紙幣は、券売機で「返金することが無い唯一の紙幣」であり、紙幣切れをしても鉄道事業に支障をきたさない1万円札を活用。引き出し可能な金額は1万円・2万円・3万円の3パターンで設定し、1日の利用限度額は3万円となる。金額は駅構内に設置するATMの利用実績から分析し設定したという。利用手数料は、横浜銀行=108円(土曜・日曜・祝日は216円)、ゆうちょ銀行=108円(2020年1月4日以降は、8時45分~18時=108円、それ以外は216円)。いずれも今年6月30日までは手数料無料。利用可能時間は5時30分~23時。
対象となるのは世田谷線とこどもの国線を除く6路線85駅に設置されている東急電鉄の券売機319台(渋谷駅内は18台)。電車内や駅で広告を掲出するほか、券売機の画面上でもバナーを設置するなどサービスをPRする予定。
東急電鉄などは今後、キャッシュアウト・サービスを身近に金融機関やATMがない地域で展開し、鉄道他社に参画を呼び掛け新たなインフラとして整備を図るほか、病院やホテルなどにある自動精算機などこの仕組みを応用できる事業者との連携についても検討していく。
東急線沿線各駅では2015年、QRコード読み取り機能が付いた券売機を導入している。これまでQRコード機能は、事前にネット予約した定期券をスマートフォンなどから購入できるサービスとして活用してきた。今後も券売機を活用した新たなサービスの検討を進めるという。