渋谷駅近くの明治通りなどに沿って、愛犬を見失った一人の少女の物語を全長200メートルのイラストで表現した「仮囲いアート」が、ネットに投稿された一本の動画を発端に話題を集めている。
イラストは、老朽化に伴い来年3月の完成に向け再整備工事が進む渋谷区立宮下公園(渋谷区神宮前6)の仮囲いを活用したストリートアート。NPO法人「365ブンノイチ」がプロジェクトを立ち上げ、スプレーなどの落書き防止も兼ね昨年クラウドファンディングなどで支援を呼び掛けた。
明治通りと美竹通りに面した高さ3メートル、延べ200メートルに及ぶ囲いを巨大なキャンバスに見立て、3メートル×3メートルの下絵48枚を仮囲いに貼り付けた後、美大生らが本塗りした力作は4月に完成。一人の少女が愛犬を見失い、愛犬を探しながら、障がい者やLGBTの人など、渋谷の多種多様な人たちに助けてもらい、触れ合っていくストーリーを描く。原画はイラストレーターの金安亮さんが担当した。
イラストには、SHIBUYA109やハチ公前広場など渋谷のランドマーク的な場所や、犬が少女を探すストーリーも描かれ、盲目の人やLGBTのカップル、車いすのスポーツ選手、ストリートミュージシャンなど50人以上も登場する。ストーリー展開にハラハラする人や、少女と街の人との触れ合い、再会のシーンに感動する人や、登場人物やイラストの細かい設定に気付き指摘する人など、ネット上にはさまざまな感想が寄せられている。
今回動画を投稿した舞台女優の今治ゆかさんは、プロフィールに「柴犬好き」と書く愛犬家で、友人と待ち合わせていた場所を間違え、本来の待ち合わせ場所に移動する際に仮囲いの絵を見つけたという。イラストのテイストが好みだったこともあり、残しておこうと動画を撮り始め、愛犬と自身に重ね、「どうか幸せになってほしい」との思いから絵を追い掛けていった。
「普段、私を含めみんなが通勤や歩く時などもスマホを見てばかり。(動画を通じて)街の小さなイベントなどの芸術活動にも目を向けてもらえるかと思った」などと投稿の理由を語る。その後、動画の思わぬ反響を受け、「突然バズってどうしたらいいかわからない時 相談相手が犬しかいない件」と投稿。テレビ番組にも自身の投稿が取り上げられ、ものまね動画と共に番組を告知するなど、ユニークさも交えながら投稿を続けている。
同NPOプロジェクトリーダーの田村勇気さんも突然の反響に驚きを隠さず、「もう一回同じことはできない位、多くの方に助けていただき苦労して制作した作品。細部に至るまで全て手描きにこだわって作ったので、1年たっても僕らにとってはわが子同然の存在。たくさんの人に喜んでもらえているというのは制作者冥利(みょうり)に尽きると心から思う」と話している。