使われなくなったエレクトーン教室や音楽スタジオなどの雰囲気をそのまま残した空間に、巨匠から若手まで気鋭のアーティスト50人以上の写真やグラフィティ作品などを並べる複合アートフェア「ARIGATO SAKURAGAOKA by ART PHOTO TOKYO」が11月16日、渋谷・桜丘の旧「ヤマハエレクトーンシティー渋谷」(渋谷区桜丘町)で始まった。主催はエイベックス・エンタテインメントや東急不動産などから成る実行委員会。
桜丘の小高い丘の上に位置することから「崖の上のヤマハ」とも称され、ヤマハ音楽振興会のかつてのレコーディングスタジオ「渋谷エピキュラス」を前身とする同所は、大規模再開発に伴い来年1月から取り壊し工事が行われる同エリアの中でも、「音楽の街」を象徴する存在の一つだった。
フェアのディレクターを務める現代アートギャラリー「hiromiyoshii(ヒロミヨシイ) ropponngi」オーナーの吉井仁実さんは、2016年にも再開発で取り壊される前の日本橋のビルを会場に同様の企画を展開。「次は渋谷で、という思いがあった」と渋谷周辺で会場を探していた中で、「特別な存在感を放っていた」と感じた同所を選び、「移りゆく街の次につながる炎をともしたい」とフェア開催を決めた。
「Bunkamuraやビットバレーなどいろいろな要素・文化を持っている」渋谷で、展示作品はポップカルチャーやサブカルチャーも意識したという。荒木経惟さんや森山大道さんをはじめ、ミュージシャンのCDジャケットや広告写真などで幅広く活躍する北島明さんや舞山秀一さん、激情的な切り口の作品で知られる新田桂一さん、世界的評価も高い森山大道さんなど多彩な顔ぶれの写真家に加え、ストリートアートを手掛けるユニット「SIDE CORE」、現代美術家で計算機科学者でもある脇田玲さん、建築家・谷尻誠さんなども参加する。
2階「Room6」には人気写真家レスリー・キーさんの作品が並ぶ。再開発で消えゆく桜丘町の街や渋谷南エリアで双子モデル「AMIAYA」などを撮影した作品を壁一面に展示。イケベ楽器や渋谷駅西口歩道橋など桜丘町らしい風景が写り込んでいる。キーさんは3階入り口近くの「Room1」でも、今年9月に死去した女優・樹木希林さんの作品を公開。奈良で開いた「愛・樹木希林」展の作品を都内で初めて展示している。
会場には渋谷がロケ地の作品も多く、2階「Room7」では、音楽好きの写真家を中心に2011年から開催しているクラブイベント「TOKYO PHOTOGRAPHER'S NIGHT」の国内初となるグループ展で、渋谷をテーマにした作品が並ぶ。笠井爾示さんら写真家10人が独自の視点で「渋谷」を切り取り、P.M KEN(ピーエムケン)さんが、ブルックリン・ウィリアムズバーグと渋谷パルコ、タイムズスクエアとSHIBUYA109など、「NY」と「渋谷」の写真を合成した作品などが目を引く。90年代に流行したガーリーフォトの先駆者でもある女性写真家HIROMIXさんが撮り下ろした作品も、渋谷スクランブル交差点などが舞台となっている。
2階奥の空間に広がるのは、映像作家・写真家の柿本ケンサクさんの作品。柿本さんは渋谷・円山町など4カ所のビルボードを自ら購入し、自身の作品を街頭に掲出。会場ではそのビルボードの前で俳優・窪塚洋介さんを撮影した作品を天井と壁全面に展示。足元は自身がカメラを構える巨大なポートレートになっている。
写真作品以外の映像やアート作品では、アーティストグループ「Everyday Holiday Squad」の映像作品などに注目。再開発で変容する「渋谷」にテーマにした映像作品「ROAD WORK ver TOKYO」では、夜の渋谷を舞台に工事現場の作業着姿に扮(ふん)した若者たちがスケートボードで縦横無尽に街中を駆け巡り、架空の「スケートパーク」も作られる。震災後に石巻で制作した作品の「続編」で、「被災地から東京へ、ストリートカルチャーは場所を超えて風景をつなげる」という意味を込めたという。
北側には「渋谷フクラス」(旧東急プラザ渋谷)、東側には「渋谷スクランブルスクエア」「渋谷ストリーム」と、渋谷駅周辺の再開発ビルが360度パノラマで一望できる屋上も開放し、DJ、ライブイベントなどを開催。会期中は3階のメインスタジオもイベント会場となり、バーも併設する。
23日(18~22時)には若手シンガーKick a Show(キッカショウ)さん、29日(19~24時)にはDJ Nobuさんをはじめ国内外で活躍するDJが登場する「TOKYO TECHNO SOCIETY #5」、30日(19~20時30分)には作品を展示する217..NINAさんと親交のある歌手・青山テルマさんによるトークライブなどのイベントを予定する。
吉井さんは「地元の方にも、ぜひ来ていただきたい」と来場を呼び掛けている。
開催時間は12時~20時。月曜・火曜・水曜休館。入場料は1,000円(公式サイトで要事前サイト登録)。高校生以下、60歳以上は無料。