「安室ちゃんが次のステージに進むなら、私も進む」――歌手・安室奈美恵さんが引退の日を迎えた9月16日、引退を名残惜しむように渋谷に集まったファンからは、安室さんの生き様などに影響を受けながら、安室さんと共に歩んできたエピソードの数々が聞かれた。
安室さんのツアーTシャツにミニスカート、ロングブーツ姿で渋谷ヒカリエ(渋谷区渋谷2)の展示会場を訪れていた彩千恵(さちえ)さん(31)は、一緒に来ていたパートナーの男性と、安室さんの引退日当日に入籍することを決めた。「10代のころからずっとファン。朝起きてから職場でも曲を聴いていている。安室ちゃんが決めたことだから、私も新しいステージに進みたい」と入籍を決め、「今日、この後2人で籍を入れに行く」と笑顔で話した。
前日の沖縄ラストライブのチケットが手に入り、弾丸旅行でこの日朝に都内に帰ってきたという夏帆さん(25)と埼玉から来た京子さん(33)は、互いに安室さんのファンだったことから友人関係に。「入院先で知り合った。お互いファンだと知って、入院生活の話よりも安室ちゃんの話ばかりしていたよね」と懐かしみ、「いろいろ良いことばかりじゃないことを経験しても、自分を強く見せられるところ。生き方、姿勢に憧れていた。本当にありがとう、お疲れさまでした、と伝えたい」(夏帆さん)、「引退は選んだ道だから仕方ない。幸せになってください」(京子さん)と、それぞれメッセージを送った。
安室さんの存在が友人同士や家族の絆を深めたというファンたちも。江戸川区の主婦、ゆみさん(35)、みちよさん(40)、えみさん(39)は同じ幼稚園に子どもを通わせる「ママ友」。「友達になってからしばらくして、それぞれが別々に安室さんのライブに行っていることが判明した。皆で応援するようになって絆が深まった」(ゆみさん)と話す。「曲を聴くと青春時代を思い出す。あの時、ああだったよねと一緒に振り返れるのがうれしい。今まで本当にありがとう」(みちよさん)と感謝の言葉を口にした。
安室さんの展示会場などを巡りながら、この日夜に安室さんの故郷・沖縄で開かれた花火大会の中継も、訪れていた渋谷で視聴したという鈴木正和さん(41)・麻紀子さん(37)・悠介君(9)親子は、家族で10年以上にわたり安室さんを応援。「1999年に結婚して、大学生、高校生の娘2人もいる。ライブのチケットが4枚当たると、家族5人でチケットの争奪戦になる」ほど、家族そろって熱心なファン。「ライブは2006年、沖縄での初単独ライブに行ったのが最初」と話す。
入籍から数年、挙げていなかった式の会場を沖縄で予約した後、「本当に偶然、予約した結婚式の前日に、安室ちゃん初の沖縄単独ライブが開かれることが分かった。初めて夫婦で見に行き、叫び過ぎて翌日の結婚式は声があまり出なかった」(正和さん)と笑う。結婚前から安室さんのファンだった麻紀子さんに薦められ曲を聴くうちに、正和さんも大ファンになった。
「まだSNSもそこまで普及していない時代、モバゲーなどのコミュニティーを通じてチケット情報などを探した。名古屋や栃木などのファンとやり取りするうちに、地方にも友達ができた」と、安室さんがつないだ縁を大切にしていると言う。引退後も「いつもと変わらず毎日安室ちゃんの音楽を聴く。本当に感謝しかない」と、これからも家族皆で安室さんのファンで居続けると誓っていた。
安室さん引退日となったこの日の渋谷には、安室さんのファッションをまねた「アムコス」に身を包んだファンや長年安室さんを応援してきた「アムラー」世代の親子連れなど、多くのファンが終日途切れることなく押し寄せた。安室さんの手形モニュメントが1階エントランスに設置されたSHIBUYA109(道玄坂2)前には、営業終了時間の21時を過ぎても安室さんの手型に触れようとファンらが並び、長蛇の列が。ファサードに取り付けられた「We love namie amuro」のネオンサイン前で写真を撮る人も後を絶たなかった。
安室さんの軌跡をたどる企画展「namie amuro Final Space」でも、6月の発売と同時にこの日のチケットを予約し、「プレミアチケット」を手にしたファンらが歴代の衣装やステージセットなどを見て回り、にぎわいを見せた。109やタワーレコード渋谷店(神南1)などに置かれたメッセージボードにも「安室ちゃん大好き」「25年間ありがとう」などのメッセージが並び、90年代にアムラーブームが起きた、ファンにとっても「特別な地」渋谷で多くのファンが引退をかみしめていた。