代々木公園の一角でサッカーなどの多目的スタジアムの整備を目指すプロジェクト「代々木スタジアム」構想が9月13日、明らかになった。
産官学民連携で4月に設立された渋谷区の外郭団体「渋谷未来デザイン」が、川淵三郎・日本トップリーグ連携機構会長らをパネリストに招いて開いたトークプログラム内で発表した。プログラムは、渋谷区の多様な未来を考える目的で同7日に始まった複合カンファレンスイベント「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA(以下SIW)2018」の一環。
構想では、NHK放送センターに隣接し、ケヤキ並木や野外ステージ周辺でイベントが開かれることも多い代々木公園B地区に、約3~4万人を収容し、コンサートなども開ける屋根付きのスタジアムの建設を目指す。スタジアム名称を「スクランブルスタジアム」とし、多様な価値観を持った人々や情熱が交わり広がっていく「スクランブルパッション」をコンセプトに掲げる。
サッカーを中心とするプロスポーツのスタジアム機能に加え、音楽・ファッション・アートなど大規模なイベント興行やプレーグラウンドなどの公共空間としても機能。災害時の受け入れにも対応する多目的拠点として、地域に開かれた「スタジアムパーク」を提案する。既存の自然環境を残しながら、スタジアム外にはパブリックビューイングスペースなどの整備も想定している。
この日、パネリストとして登壇した川淵会長は、Jリーグ発足当初、整備が遅れていた国内のスタジアム環境について振り返りつつ、「どうしても23区内にサッカー場を、と25年間ずっと思ってきた。民間から話が出て心からうれしく思う」と構想を歓迎。「海外ではスタジアムそのものが商店街になっている例もたくさんある」と各国のスタジアム周辺の消費動向についても触れ、「VIPルームを作ることで災害時にも活用できる」と、具体的な要望も明かした。
川淵会長と現在、エンターテインメントとスポーツでタッグを組む新たなプロジェクトも計画しているという大手音楽プロモーター、ディスクガレージの中西建夫会長は「日本のスポーツ産業は海外に大きく差を付けられている。使う側に立って、どう運用し理想型をつくれるか。渋谷の街に(スタジアムが)できることで、今後いろいろなケースの試金石になる」と期待を寄せた。
サッカー元日本代表の福西崇史選手は「選手としてサポーターがたくさんいると力が出る」と、観客動員数が選手の「士気」にも影響すると選手からの視点からコメント。川淵会長も「良いスタジアムができたら多くの人が入る。観客動員数が全て」と語気を強め、アクセスの良さについて、プロジェクトリーダーで渋谷未来デザイン理事の金山淳吾さんも「渋谷、原宿、代々木公園、参宮橋と代々木公園周辺には4つの駅があり交通の便もいい」と構想の特長を挙げた。
「今の子どもに夢がないのは当たり前。大人が夢を見せれば夢は見られる」と、教育の観点からスタジアム構想を評価したのは、「ビリギャル」などの著書でも知られる、学習塾「坪田塾」塾長の坪田信貴さん。「ジョン・F・ケネディは根拠のないところから月面着陸を実現させた」と、夢のある計画が「渋谷を憧れが生まれるまちにする」と力説。
渋谷未来デザインの一員として「フューチャーデザイナー」も務めるロフトワーク(道玄坂1)の林千晶代表取締役は「1年前に代々木公園にこども園ができた。先生の一人から、代々木公園に来る大道芸人やビジネスマンもみんなで『先生』になれば良いという話を聞いた」というエピソードに触れ、「みんなが関われるものに。都民みんなが経営者に」と、市民が主体になりつくり上げていく構想を提案した。
この日公開されたスタジアムのイメージ画像は、東京都が政策の推進や政策形成などに新たな発想を取り入れるため新進気鋭の若手と意見交換を行う「東京未来ビジョン懇談会」にも参加する建築家・田根剛さんが手掛けた。金山さんによると、今後、年内と年明けにもディスカッションを予定し、2020年東京オリンピック・パラリンピック終了後、2030年までに民間発のスタジアム構想実現を目指す。