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桜丘町の築80年・レトロモダンな木造アパート、解体迫る 地区再開発に向け

桜丘町の住宅街の中で異彩を放つレトロモダンな外観

桜丘町の住宅街の中で異彩を放つレトロモダンな外観

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 渋谷・桜丘町8丁目にある築80年のレトロモダンな木造アパート「ジュネス順心」が渋谷駅周辺の再開発計画に伴い、解体される。アパート住人とオーナーが10月末に立ち退く予定だ。

築80年アパート オーナー志村和義さん

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 1938(昭和13)年、イタリア人により設計された3階建ての木造建築。丸窓や4連アーチのポーチ、玄関周りのタイル張り、ステンドグラスなど、当時としては珍しい洋風建築の装飾が随所に取り入れられた外観で、同地区の中でひときわ存在感を放っている。もともと建物は「(戦前戦中の)日本を中心としたアジア編成に向けた『大東亜共栄圏』の中で、インドネシアやビルマ(現・ミャンマー)など、東南アジアの優秀な留学生を受け入れる学生寮として使っていたと聞いている」と話すのは現オーナーの志村和義さん(80)。

 志村さんは、東京五輪を控える1962(昭和37)年に同物件を購入。それ以前は、青山3丁目交差点付近で、ワシントンハイツの米軍将校や外資系企業、在駐大使館を得意先とした生花店を営んでいたという。1964(昭和39)年の東京五輪に向けて着工された「外苑西通り」の整備工事に伴い立ち退き、廃業を余儀なくされ、「仕方なくここへ来た」と憤りを思い起こす。

 引っ越し後は、1階は自宅、2階・3階は各部屋のガスや水回りなどの工事を行い、間取り1K、1Rを中心とした単身者向けの賃貸アパートの経営を始める。当時は東京大学や早稲田大学、国学院大学などの男子学生の借り手が多かったという。「学生に部屋を見せると、床(フローリング)を畳にしてくれとか、木の天井がいいとか、装飾を施した傘付きの照明を電球にしてくれとか、ふすまの絵柄をシンプルにしてほしいなど、洋間に慣れていない学生が多かった」と当時を懐かしむ。

 立ち退きまで3カ月を切る中、全14戸ある部屋のうち9戸は現在も借り手がいる。渋谷駅から徒歩3分という立地の良さと格安な家賃設定から、住まいとして暮らす人のほか、資格試験に向けた勉強部屋や事務所として活用する人も多いという。

 築80年、半世紀以上にわたって暮らしてきたアパートの取り壊しについて、志村さんは「もう十分に住んだので寂しくない。昔と比べて車や人の往来が増えたし、階段や坂も多いエリアのため、(体力を考えると)もう限界かなと思う。再開発で立体歩道が整備され、駅まで歩きやすくなる」と高まる利便性に期待を寄せる。一方、借り主の一人であるコピーライター・永井一二三さんは「駅から立地が良く、仕事に集中できる狭い部屋を探していたので、僕にとってぴったりの物件だった。あと3カ月間で無くなってしまうのは残念」と名残惜しむ。

 渋谷駅西口から国道246号線を隔てた「渋谷駅桜丘口地区」の再開発プロジェクトは、駅周辺の商業ビルやオフィス、志村さんらの住宅などを含めて約2.6ヘクタールの範囲に及ぶ。2023年度、地上37階建ての複合施設などを含む3棟の建物が開業を予定。竣工後、志村さんは地権者の一人として、自己負担なく新施設内の居住エリアに住み替えが決まっているという。

 「あと3カ月間、立ち退きまでに荷物などを片付けたり、捨てたりしないといけないので、それが一仕事になる」(志村さん)と苦々しく笑う。

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