渋谷のさまざまな社会的課題の解決や渋谷の未来像のデザインに向け、産官学民連携の新しい組織「一般社団法人渋谷未来デザイン」(渋谷区神宮前6)が4月2日、設立された。
「ちがいを ちからに 変える街」を目指し2016年に策定した基本構想に基づき、渋谷区は「ダイバーシティー(多様性)&インクルージョン(受容)」という考え方を軸に、街のさまざまな課題解決や新しい試みを進めている。新法人は「社会的課題の解決」「新しい渋谷の街の未来像」の具現化を加速させるため、一つの主体だけでは実現できなかった街の課題に対し、行政主導の枠組みを超え、渋谷の民間企業や学校、行政、市民等との協働・共創を推進するハブの役割を担う。
事業内容は、先端技術などを活用しながら行う「都市体験デザイン」、公共・民間企業のスペースやビッグデータなどを活用して社会的価値を高める「空間価値デザイン」、市民の発意を元に新しい渋谷をつくっていく「市民共創事業デザイン」、ニューヨーク、ロンドン、パリと並ぶ世界的な文化拠点にしていく「シティブランド創造事業」、地方や海外都市、学校との連携で各事業の実現化を促進する「都市・大学連携事業」の5つの事業を展開していく。
「東京カルチャーカルチャー」(渋谷1)で4月25日に開かれた会見で、同法人の小泉秀樹代表理事(東京大学教授)は「『未来を考える』だけで終わったら何も起こらない。実際にアクションを実行していく。そして、そこからさまざまなイノベーションを起こすハブになっていきたい」とアイデアの具現化を目的とする組織であることを強調した。
初年度となる2018年の具体的な活動は、フレームワークや新しい仕組みづくりなどを行う「創造文化都市渋谷の実現に向けた計画策定」、5Gインターネット(次世代通信網)などを活用した「最先端テクノロジーの社会実証実験」、渋谷区内でも居住者の多い笹塚・幡ヶ谷・初台のまちづくりを進める「『ササ・ハタ・ハツ』エリアのビジョン共創」、公共・民間企業が持つ空間の有効活用を推進する「パブリックスペースの利活用プロジェクト」、「ダイバーシティー」をテーマに昨年初めて開催したイベント「DIVE DIVERSITY SUMMIT SHIBUYA(DDSS)」の実施運営、渋谷の土産などを開発する「渋谷区公式スーベニア整備事業」、市民のアイデアを組み合わせて「魅力的な」事業の実現を目指す「クロスセクターによる多様なアイデアの創出」などを優先して取り組んでいくという。
組織は理事会メンバー9人のほか、事業を推進する「フューチャーデザイナー」と呼ばれる外部の特別アドバイザーとして、夏野剛さん(慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究所特別招へい教授)、林千晶さん(ロフトワーク社長)、佐藤夏生さん(EVERY DAY IS THE DAY共同代表)ら7人が就任。会見に併せて行われたトークセッションで、夏野さんは「新しい『ブレードランナー』でも明らかに渋谷をモデルにしていて、猥雑(わいざつ)さ、乱雑さ、未来感とテクノロジー、人とのリアルつながりなど、渋谷は世界のベンチマークになっていることが分かる」と話した。「『日本の未来』『東京の未来』の前に『渋谷の未来』を語る方が、リアリティーがあっていい。渋谷は21世紀にふさわしい街」とも。
当面の運転資金として、渋谷区をはじめ、東急電鉄、NTTドコモ、ソニー、アカツキなど参画パートナー15社から2億500万円を集めた。この出資金を元に始動し、3年ほどで同法人自らが収益を上げ自立できる体制を徐々に整えていくという。
長谷部健渋谷区長は「行政が抱える課題は多様にあるが、行政単体では、すぐに解決につなげるのが難しい。いろいろなセクターがクロスして解決に当たっていくことが、これから問われる課題。その大きなエンジンの一つとして『渋谷未来デザイン』をしっかり育てていきたい」と産官学民連携による新しい取り組みに期待を寄せる。