平成「最後」の年、かつてギャルのバイブルとなっていた雑誌「egg」がウェブ版で復活し、「聖地」と呼ばれたSHIBUYA109でも各店が厚底靴などの90年代アイテムをリバイバル。伊藤桃々さんらティーンに人気のギャルモデルも出現するなど、ギャル文化に再び注目が集まっている。
ファストファッションが台頭し、「かわいさ」にこだわる若者の間で韓国系「オルチャンファッション」も地位を確立。スマホを開けばSNSや動画サイトに無数の情報が広がるなど、時代は変わり、流行や若者の表現・交流の場も大きく変化した。90年代にギャルブームが起きてから足掛け20年。ギャルは「どこ」へ行ったのか。90年代ムーブメントの裏側と新世代ギャルの実態に迫る。
SHIBUYA109(以下109)は10月20日、90年代のカルチャーやファッション、音楽を取り上げるナイトイベント「109NIGHT」を開催した。
「#平成最後の冬 まぢでぇぇぇ90年代GALやめられない宣言ッ★」と題し、全館で展開する秋冬ファッション企画の一環で、ギャル文化を含め「90年代」を前面に打ち出した。館内の各ブランドではこの秋、90年代のトレンドアイテムを現代風にアレンジしたスタイル提案が多く、秋冬テーマの一つとして企画が持ち上がった。
青山テルマさんや藤田ニコルさんらを起用したキャンペーンビジュアル
キャンペーンビジュアルでは、歌手の青山テルマさんやモデルでタレントの藤田ニコルさん、人気ユーチューバーで雑誌「ポップティーン」のモデルでもある「ねお」さんらがギャルメークと90年代ファッションで決め、センター街などでギャルポーズ。屋内外の広告や館内で配布するカタログなどに同ビジュアルを採用した。
ナイトイベント当日は「Back to 90's」をテーマに、店頭ステージで「egg」モデルなど20人がパラパラを披露。人気モデル伊藤桃々さんらがステージに登場すると、大雨の中集まった若者の一部からは黄色い歓声も上がり、女子高生の制服に身を包んだモデルたちがユーロビートに合わせ息の合ったダンスを見せた。
人気eggモデル伊藤桃々さん(写真左)らが制服姿でパラパラを披露
館内では、90年代に若者の間で流行した使い捨てカメラ「写ルンです」体験コーナーや、同じ「写真」文化でも進化形ともいえるARカメラアプリ「SNOW」のギャルスタンプ企画も展開。各店の店員も90年代風のファッションに身を包み客を迎え入れた。
雨にもかかわらず多くの若者がイベントを楽しむ中、短いスカートにオーバーサイズのカーディガン、厚手のルーズソックス姿で90年代女子高生を「完コピ」し、ひときわ目立っていた「じゅりぴ」さん(17)は埼玉・深谷から来た高校生。かつてギャルだったという母親(36)の影響もあり、小学生の頃からルーズソックスを履いていたほど「ギャルが大好き」と言う。
90年代ギャルを「完コピ」したじゅりぴさんは埼玉からイベントに
手にしていた、南国風の葉がプリントされた「me Jane (ミージェーン)」のショッピングバッグも、90年代ギャルの「必須アイテム」の一つ。小学生時代から見ていた雑誌「egg」や、90年代の青春物語を中心に描きこの夏公開された映画「SUNNY 強い気持ち・強い愛」も参考にした。
「学校は校則が厳しいけど、エクステをしたり週末に着飾ったりして渋谷に来る。高校に入ってバイトができるようになってから自分のお金で買っている」と、高校生になり本格的にギャル「デビュー」。周りに同じような格好をしている同年代は「いません」と笑い、「全校でも1人いるぐらい。ルーズ(ソックス)やメークに対して『派手だね、メーク濃い』とは言われる」と決して反応は良くなく、周りでは今のところブームの兆しはないという。
「いろいろ聞かれるけど、実際には(周りはファッションには)取り入れない。地元で歩いても見たことがない」と、全身にギャルファッションを取り入れるには抵抗感のある人が多いようで、「本当は個性を出したいけど出せない子が多いのかも」とも考える。興味がありながらも踏み出せない同年代の葛藤も理解する一方で、素直に「自分」を出せるギャルファッションを心から楽しんでいる。
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ゼブラ柄やラインストーン、黄緑や紫色のベロア素材。ふくらはぎまであるロングブーツのつま先は10センチ近くあるほどの厚底。まさに90年代ギャルスタイルそのものの厚底ブーツが、カラフルでポップな解釈を加え現代によみがえる。発売したのは、当時からティーンがこぞって厚底靴などを買い求めたシューズブランド「ESPERANZA(エスペランサ)」だ。
水原希子さん手掛けるブランドとコラボした厚底ブーツ
「OK×ESPERANZA」シリーズとして、女優・モデルの水原希子さんが手掛けるブランド「OK(Office Kiko)」とコラボレーションし、10月1日に発売した。109のキャンペーン同様、コラボシリーズのビジュアルには「みちょぱ」ことモデル・タレントの池田美憂さんや、現代アーティストのエリイさん(Chim↑Pom)、「egg」で活躍したモデル渡辺かおるさんや「ろみひ」の愛称でも人気を集めた細井宏美さんを起用。厚底ブーツを履き、現役で活躍する人気モデルらがギャルスタイルで並ぶビジュアルは、90年代をリアルに知らない若者でもインパクトが大きいだろう。
商品を手に取る客は「昔も出していた。懐かしい」と言って買っていく30代の女性や、親子で買い物に来て買う人も。90年代を知らない若い世代は、「面白い、ヤバい」と、目新しいと感じる人が多いという。実際に買って行く若い世代は、「カラフルな服が好きだったり、人と違うものが好きだったり、流行にとらわれない人」と話すのは、スタッフの仁藤菜々美さん(23)。ファッションの一部に取り入れることで「個性」を出せることも購入の決め手になっている。
昨年発売したものを再販しリピーターもいるという「きれいめ」厚底ブーツ
OKとのコラボ商品のほかにも、店には12センチヒールの厚底商品が所々に並ぶ。昨年の秋冬から取り扱っている「形がきれいめ」(仁藤さん)なショートブーツは、履き心地が良い、脚が細く見えるなどの理由で昨年からのリピーターもいる人気商品。ブーツはロングもあるがショートブーツが中心で、レースアップや、シルバーやパープルなどのデザイン・カラーバリエーションのほか、ローファーやスニーカーなどの厚底タイプもそろえる。
90年代テイストを取り入れた商品が並ぶ「エゴイスト」店内
90年代後半、「カリスマ店員」がブームを起こしたブランドの一つ「EGOIST(エゴイスト)」も、今季投入するアイテムの随所に90年代テイストをちりばめている。
オーバーサイズで着崩して羽織るアウターや、膝から下にかけて広がるフレアパンツなど。90年代そのままではなく、スエード加工などの素材や着た際にきれいに見えるシルエットにこだわった。時代の空気感を取り入れながら貫いてきたスタイルが、今も顧客の心をつかんでいる。
ブランド創設20周年を迎える今季は、代名詞でもある「BLACK」をベースに、これまで提案してきたブランドのアーカイブを、「現代のフィルター」を通して表現。夜のパリを着飾って歩く女の子がインスピレーションになっているという。アーカイブの中でも、濃いめのパープルや千鳥格子、チェックなどの柄物や、細身シルエットのパンツ、ミニスカートなどのアイテムで90年代色を取り入れた。
スタッフの上杉梨奈さん(20)は「フレアパンツは、細身なだけでなくハイウエストでシルエットにこだわった。裾の丈を短くしてフラットシューズでも履けるのが今っぽさ」と話す。アウターも丈を短めにして女性らしさを出している。靴は、ピンヒールやつま先がとがったポインテッドトゥ。ニットはオフショルダーやワンショルダーなどの肩出しでセクシーに。レザーアイテム全般やチェック柄のネルシャツなどの売れ行きがいいという。
「90年代を感じさせる商品は、おしゃれに敏感な、個性的なスタイルが気になる若い子が買っていく」と、決して「万人受けではない」としながらも、「最初は新鮮に映るものでも、それが定着していくのを見てきた。今後『来る』という感覚はある」と手応えも明かす。「(カリスマ店員時代だけでなく)今でもショップのスタッフは(109館内の)他の店も見て意識し合っている。影響し合ってトレンドを発信する。それがすごいなと思う」とも話し、若者の流行発信地を支えてきた人気店員の「審美眼」は今も健在だ。
フレアパンツでスタイリングしたスタッフの上杉梨奈さん(20)
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109ではこの秋、9月16日に歌手生活に幕を閉じた安室奈美恵さんのリバイバル商品として売り出した厚底ブーツが完売した。「平成最後」の年に安室さんが引退。90年代から平成を駆け抜けた安室さんの電撃的な幕引きも平成の終わりを印象づける決定的な出来事となり、今ファッション業界だけでなく「90年代」が脚光を浴びている。
109を運営する「SHIBUYA109エンタテイメント」オムニチャネル事業部メディア・プロモーション部長の丸山康太さんは、同館が主要ターゲットとする若年層にとって90年代ファッションは「新鮮に受け止められているようだ」と話す。「僕らの世代はこの時代を知っているが、今の若い子は知らないから新鮮に映ると思う」と若年層が捉える「目新しさ」に着目する。
イベント開始時から配布するカタログは、90年代を知っている作り手側の「自己満足に終わらないように、企画の段階でも気を付けた」と言い、「出るモデルの意見を取り入れたり、若い世代の担当者に話を聞いたりした」が、意外にも現場の声は「当時のままがいい」。「90年代のまんまが逆に新鮮、となり振り切った。出ているモデルたちも楽しんでノリノリで撮影していた」と撮影時を振り返る。
イベント当日にカタログなどを入れ配られた袋も90年代ギャル文化をリバイバル
とは言え、今後も90年代やギャルテイストを前面に打ち出していくつもりは全くない。「当時から運営側はギャルとは言っていない。ギャルブームの中でも、館内はいわゆるギャル服だけではなかった。テイストは絞らず、広く若者に発信していきたいというのが109」と、引き続き若年層全体を取り込んでいきたい考えだ。
「かつては情報が限られていたのもあって皆が同じものを持つ時代だった」のに対し、今は客の好きなものも多様化の一途をたどる。その中で、「90年代」に関しては「館内の30~40店が束になることはそんなにない。一つのテーマでここまで集まったことにびっくりしている」と各店が打ち出したテーマが重なったといい、90年代やギャルを打ち出すことに「初めは悩んでいたが、ブランドに後押しされた形」と経緯を明かす。
ムーブメントは今後定着し、再び「ブーム」になるのか。答えは「トレンドも早い。一過性だと思っている」ときっぱり。「当時の90年代カルチャーに憧れた人が影響を与える立場になっている。平成も終わる、安室さんの歌手生活も終わる、いろいろな要素が重なってムーブメントにはなっている」と、まとまった動きはあるものの、「ギャルに戻ります、昔いいでしょということでは全くない」とし、「109としては今後もそういったところにコンタクトしていきたい。今回は一定数の流れがあったことで企画した『イベント』」と言い切る。
ナイトイベントのテーマも「ギャル」ではなく「90年代」。店頭でパラパラステージなどが披露される一方で、館内ではTKサウンドなどに混じり大事MANブラザーズバンドやパフィーなどの90年代ヒット曲もBGMで流れていた。
「109ナイト」には雨の中多くの人が訪れた
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かつての「聖地」109がイベントを打ち出せば、ギャルの「バイブル」も今春、ウェブ版で「復活」。ギャルブームをけん引し、2014年に休刊した女性ファッション誌「egg」がウェブ版を立ち上げてから半年がたった。
1995年に創刊した同誌は、当時の女子高生のファッションや恋愛事情などを取り上げ、渋谷に集まる人気のある読者モデルやティーンのスナップ写真を特集。金髪メッシュなどの髪型やへそ出し、ルーズソックスといったファッション、肌を焼きその後「ガングロ」なども出現した派手なメークなどの流行もいち早く誌面に取り上げ、小室サウンドやパラパラなどの流行とも重なり、ギャル文化を象徴する雑誌になった。
1990年代後半ごろからは人気モデルの一部が髪をカラフルに染めるなどの個性も見え始め、2000年代に入ると色白系のギャルも混在。多様化・細分化していったギャル文化は一部で継承されながらも、大きな波は収束した。SNSの急速な普及などもあり、これに伴うように同誌も休刊。今年3月21日にウェブ版で同誌を「復活」させたのは、幼少期からギャル文化に憧れ復刊を熱望していた新世代の編集長・赤荻瞳さん(22)だった。
「egg」編集長の赤荻瞳さん
埼玉出身の赤荻さんは、ギャルに憧れ当時通っていた渋谷で高校2年生の時にスカウトされ、イベントサークル「マリア」を立ち上げた。「負けず嫌いだったのもあって、集客1位も取れた気合の入ったサークル。そのつながりで就職もした」と、その後、若者のマーケティングやセールスプロモーション、「女子高生ミスコン」などのイベントを手掛けるエイチジェイに就職。昨年12月、同社が子会社エムアールエーを設立する形で「egg」復刊に踏み切る際に自ら手を挙げた。
紙では発行せず、情報発信の場はもっぱらネット上だ。ユーチューブやライブ配信「LINEライブ」、ショート音楽動画コミュニティー「TikTok(ティックトック)」やインスタグラムなどのSNSを中心に毎日、ギャルの「最先端情報」を配信。紙からネットに移行したものの、ウェブ版トップページの「カバー」画像は、当時のデザイナーが手掛けていることもあり、かつてのeggをほうふつとさせる。
ウェブ版で「復活」したegg公式サイト(トップページ)
創刊から半年以上がたち、徐々に数字も増えてきている。「ティックトックを本気で始めたのが3カ月ぐらい前で、今はフォロワーが10万人。今人気のモデル伊藤桃々は、最初はフォロワーが約300人。それが20万人になった」。伊藤さんのフォロワー増加の理由は「SNSを毎日更新している。自分の見せ方がうまい。コメント返しなどがまめ」など地道な努力に加え、「ティックトックで有名になった。そこからAbema(アベマ)TVの番組にギャル枠で出演が決まり、ものすごくファンが増えた」ことから人気が爆発。
出演したのは、アベマTVの中でも特に「恋リア」として若者に人気の恋愛リアリティー番組の一つ「オオカミくんには騙(だま)されない」シリーズ。女子高生4人とイケメン男性4人の恋愛模様を追い、出演男性の中には本気で恋愛をしないうそつき「オオカミ」が紛れているため、心理戦も展開される。
編集部には伊藤さんが出演した「オオカミくん~」シリーズのポスターも
伊藤さんだけでなく、アベマTVの恋リア番組出演を機にブレークするモデルやタレントも多く、赤荻さんも「ファッションやメークは多様化しすぎて単体でブームがつくれる時代じゃない。強いて言えばSNSやネット番組などの『コンテンツ』がブームになっている」とモデル飛躍のカギは「ネットにある」とみている。
ネットには再び姿を現し始めているギャル。渋谷の街なかでは実際に姿が見られないのは、「今は携帯も普及して道路じゃなくてもお店で待ち合わせられるから、街なかにいない。昔はセンター街に行けば誰かがいるというスタンスだった」と、携帯を持つのが当たり前になった世代からすると当然とも言える指摘。「センター街で自分のファッションなどを表現していたのが、今はSNSに自己表現の場がある。それが一番大きい」と続け、実際に街でモデルをスカウトしていた時代とは違い、モデル探しも主にティックトックなどを使うという。
「ギャル」を公言する新世代のeggモデルたちの間では、昔のギャルではなく「新しいギャル」という自覚もある。「安室ちゃんが神だったという時代ではなく、『この人を目指せばいい』という人がいない。種類がありすぎて正解がない」と違いを語り、かつてのギャルに対抗するなどの意図はなく「『私たちは違う!』ではなく、時代が変わったということ。いろんなテイストを試せるのが強み」と前向きに捉える。
編集部で雑誌「egg」を手にギャルポーズを見せてくれた赤荻さん
赤荻さんが「多様化して、見た目だけで判断できないのが難しい」と語る今のギャル像には、昔から続く「ギャル精神」も垣間見える。「校則が厳しいから土日だけメークしてみよう、とちょっとでも勇気を持って踏み出してもらえたらとみんな思っている。共通して言えるのは、『うちはこれが好きだから』で突き通すところ。芯を持っているところ」と話す。
ギャルブーム復活については、「(ギャルが)増えたらうれしいなというのはある」としながらも、「これから大きなブームはどんどん少なくなっていくと思う」と冷静だ。「SNSにみんなが上げて、みんなの反応を楽しむという行為そのものがブームになる。その中で、芯の強いギャル精神に気付いてもらえれば、ちょっとまねしてみてもいいのかなというきっかけになるはず」とギャル「復権」への思いを明かす。
ウェブ上に表現の場は移したが、「ギャルと言えば渋谷と言われてきた。私自身が渋谷に来ていなかったらギャルの仕事もしていなかった。だから原点」と渋谷愛は強い。eggモデルも、渋谷に訪れた際には、109のカフェ併設バラエティーショップ「SBY」に行き、タピオカドリンクを買い「何時間も恋バナ」をしたり、ごはんを食べたり、皆で着飾ってプリクラも撮りに行く。
買い物はファストファッション系の「H&M」や「フォーエバー21」などにも寄るが、109の中ではモデルたちからよく名前が挙がる「ジェイダ」をはじめ、「マウジー」「スライ」「リップサービス」などのブランドも根強く人気。今も昔も、渋谷でギャルが行く場所は変わらないようにも聞こえる。
かつての「egg」を並べて。「この時代の方たちは雲の上の存在」と赤荻さん
「リバイバル」の言葉を辞書で引けば「昔の風俗・流行などが復活・再評価されること」と出てくる。かつてのカルチャーが見直され新鮮に映ることもあれば、根強い憧れが続くこともある。「平成最後」のギャルリバイバルの裏側には、一周回った目新しさと、その精神を含め憧れを抱き続ける新世代ギャルの「思い」が入り交じる。
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