5月20日で閉館する「アップリンク渋谷」(渋谷区宇田川町)の最終上映となった映画「JUNK HEAD(ジャンクヘッド)」上映後、同作品を手掛けた堀貴秀監督によるトークショーが開かれた。登壇した堀監督は「(この作品は)本当にアップリンクのこの場所から始まった」と感謝を述べ、同館に対する熱い思いを語った。
同作品は、映像制作経験のない堀監督が原案から、絵コンテ、脚本、人形づくり、撮影、編集、照明、音楽から声優に至るまで、全ての製作を堀監督がほぼ一人で行い、7年の歳月を費やして完成したSFストップモーションアニメ。総コマ数は約14万にも上る。2017年にカナダ・ファンタジア国際映画祭で最優秀長編アニメーション賞を受賞したのをはじめ、国内外の映画祭で高い評価を得るなどして実績を重ね、今年3月、アップリンク渋谷をはじめ全国の劇場で公開が始まった。公開から2週連続でミニシアターランキング1位を記録し、上映館が一気に拡大している。
ストーリーの舞台は、遺伝子操作で永遠の命と引き換えに生殖機能を失った人類の未来。環境汚染やウィルス感染で人口が激減し絶滅の危機にひんする。人類滅亡を止めるカギは、地下世界で独自の進化を遂げる人工生命体マリガン。人類は彼らと協力し人類再生の道を探る――という奇想天外なSFファンタジー。
営業最終日を迎えた同館は、朝から3スクリーンで大島渚監督の「戦場のメリークリスマス4K修復版」などの名作や、篠原利恵監督の新作ドキュメンタリー映画「裏ゾッキ」などを含む計14本の作品を上映。平日にもかかわらず名残を惜しむ映画ファンの姿が多く、全上映回共にほぼ完売。最終上映となった映画「ジャンクヘッド」は19時15分に上映が始まり99分間の上映後、21時ごろから堀監督のトークイベントが始まった。
アップリンク渋谷との関係について、堀監督は「2013年11月、4年かけて映画の冒頭30分くらいの映像を短編として完成させ、アップリンクのこの場所(アップリンクファクトリー)を借りて一日限りの上映会をやらせてもらった。午後から4回上映し、初めてお客さんに見てもらったが、各回ともに立ち見が出るほど盛況で…そこでやれる自信が付いた」と振り返る。「自分みたいなものに貴重な機会を与えてくれたアップリンクには感謝しかない」と、あふれる思いを口にした。
その思いを受け、同館の江崎毅支配人も急きょ登壇。「アップリンクは伝統的に若手監督の第一歩を応援する登竜門。2013年に堀監督が短編をここで上映し、今回凱旋(がいせん)という形で長編作品の公開が始まった。作品は大ヒットし拡大上映も決まり、堀監督が羽ばたく手伝いができたことはうれしい。アップリンク渋谷の最後の上映にふさわしい作品、ふさわしい監督だと思う」と賛辞を送った。その言葉に反応し、堀監督は「まだまだこれから、最後を飾った人間としてふさわしい人間に…」と言いながら目頭を熱くした。
最後に満席の会場に向けて、江崎支配人は「今後、世界に羽ばたく監督になると思う。アップリンク渋谷の最後の日に堀監督の作品を見たことを、ぜひ覚えておいてほしい」と呼び掛けた。
その後、堀監督、江崎支配人は観客と共に記念撮影に臨み、映画ファンに見守られる中、アップリンク渋谷は26年の歴史に幕を下ろした。