「ガチャガチャ」日本初登場は1965年。この年、アメリカからピーナッツを売る「ピーナッツベンダー」というマシンの改良版が輸入された。当時の料金は1回10円。翌年「アサヒグラフ」に紹介記事が掲載されて以降、爆発的に注目が集まると共に、初の国産10円機が誕生。1969年には100円機が輸入され、当時ブームだったボウリング場などに設置される。当時のアイテムは小型のピストルなど、男子児童が憧れる実用品のミニチュアが主流だった。
1973年、オイルショックを機に登場した国産20円機に次いで、1976年には30円機が登場。1977年のスーパーカー、1978年の怪獣など、「消しゴム系」の大ヒットが続いた。追って開発された国産50円機、100円機の普及とともに、1980年代は「キン肉マン」シリーズ、「ガンダム」シリーズのヒットにより「第一次ガチャガチャブーム」が築かれていった。
その後、数年は落ち着いた様相を見せるが、1995年、カプセル玩具自動販売機「スリムボーイ」などの新機種が現れ、「ディズニーカプセルワールド」の発売を発火点に市場が再び活性化。1998年頃から大人を巻き込んだ「ガチャガチャ」ブームが始まり、2002年は新規参入も相次ぎ、さらにブームが過熱する。料金も200円、300円とスケールアップし、現在は「第二次ブーム」に突入したと見られている。2002年10月には秋葉原に常時300台を揃える日本初の専門店として「秋葉原ガチャポン会館」がオープンし、話題を集めた。
社団法人日本玩具協会によると、2001年度の玩具市場は9,127億5,000万円が見込まれており、そのうち「カプセル玩具」は約250億円を占める規模に成長した。業界でも新分野の成長市場として「カプセル玩具」を合わせて総計910億円市場となる「玩菓」(510億円)、「フィギュア」(150億円)に期待を寄せている。
社団法人日本玩具協会コインを入れてレバーを回し、カプセルに入ったアイテムを買う自動販売機「ガチャガチャ」。この呼び方は、商品を買うときの音(=コインを入れ、まず180度「ガチャ」っと回してコインを落とし、その後「ガチャ」っと180度回すことでカプセルが出てくる仕組み)から自然に浸透した、いわば俗称。玩具業界では一般的に「カプセルトイ」または「カプセル玩具」とされているが、その愛称は、各メーカーが独自のネーミングを採用、展開しているのが現状だ。
「ガシャポン」として売り出すのが「バンダイ」で、同社サイトでも「ガシャポンワールド」として、カプセル商品が紹介されている。一方、トミー系の「ユージン」は「ガチャ」と呼んでいる。「ソニー・クリエイティブプロダクツ」では、国内外の有名アーティストがデザインを手掛けた大人のガチャガチャアイテムを「タイムカプセル」としてリリースするなど、各社とも愛称へのこだわりは強く、対抗機種への競争意識を露わにする。
バンダイ ユージン ソニー・クリエイティブプロダクツこうした大手メーカーでは、キャラクター関連のマーチャンダイジングに注力する一方、新たなコラボレーションによる話題性の高い商品開発にも取り組んでいる。
ユージンは学研(学習研究社)と組んで、今年4月下旬から、「学研 科学と学習ミニコレクションパート1」(1個200円)を発売した。アイテムは「ミニ顕微鏡キット」「結晶ツリーキット」「ミニ鉱物セット」「金ぴかコインセット」「ドロポン」の全5種。同社の柴生田(しぼうた)さんは「当社がアイテムを提案するからには、単なるミニチュアにすぎないものではなく、『本格的に実験・観察ができること』を徹底した」という。最近の「ガチャガチャ」を支持する層が、同社の看板誌「科学と学習」の現在と過去の読者層と重なることにも着目し、「親子で『本当に欲しいアイテム』を揃えた」。一番人気の顕微鏡は出荷数を抑えため、ファンの間ではすでに「プレミア」として位置付けられている。今年4月の初回分30万個は完売し、「ガチャガチャ」市場では異例の増産体制が図られる予定。夏にはシリーズ第2段が投入される。
学習研究社宇田川町の「BEAM」にあるナムコのゲームパーク「INTI」では昨年8月、集積数としては同区最大の210機を備えるガチャガチャ専用コーナー「シブガチャ」を開設した。土地柄、若いカップルなど20歳代が多く訪れるだけでなく、40歳代の男性も立ち寄り「懐かしのヒーロー」の入手に夢中になる光景も珍しくないという。台数では群を抜くものの、設置スペースは円形状の細長い通路のわずか20坪程度。「伸び伸びとした空間」とは言い難いが、その点にこそ「ガチャガチャは狭いスペースであっても、効率良く稼ぐには最適のアイデア」(同店店長)という同コーナーの狙いがある。
INTI渋谷店ガチャガチャマシンの「手軽さ」と「省スペース」性に着目し、プロモーションへの応用を試みる異業種の例も増えてきた。女性向けのカジュアルウェアを販売する「アーノルド・パーマー」では、5月6日までの期間限定で、「フォレット原宿店」と「お台場ヴィーナスフォート店」の店頭にガチャガチャ機を各1台だけ設置。中身は同ブランドのロゴの入った「シューレース(靴紐)」。同社アーノルド・パーマーグループの大嶋さんは設置の意図を「ガチャガチャマシンは、当社がターゲットとする顧客層が集う街を選定し、ブランドの『遊び心』も示したかった」と明かす。一見すると「ガチャガチャ」とは縁遠いイメージのショップの前だけに、その存在は一際目立つ。そのため同店を訪れた客だけでなく、通りすがりの若い女性も足を止めていた。「1日に数回、カプセルの補充を行っていた」ほど好評だったという。
アーノルド・パーマー映画配給の「シネカノン」では、5月10日に封切りとなる「ロスト・イン・ラ・マンチャ」の公開記念として、上映する渋谷「シネアミューズ」のロビー階に「ガチャガチャ」を設置する。カプセルの中身は、劇中に登場する「テリー・ギリアム監督」に対する「支援基金」名目のステッカー(300円)。併せて販売するTシャツを購入すれば「サポーター証明書」が発行される仕組み。同作は実話に基づいたストーリーで、一連のキャンペーンで集められた売り上げは、同監督への寄付金に充てられるという。マシンの設置は公開終了まで。
シネアミューズ「ガチャガチャ」は、実に様々な応用が利く。例えば「INTI」のように、ひとつのスペースにマシンを数多く並べることで空間を「縁日化」し、「どれかのマシンには自分の感覚に合うアイテムがあるかもしれない」という探究心を煽動する。
ラフォーレ原宿6階にある「ラフォーレミュージアム原宿」では5月2日から11日まで「ガチャ博 GACHA GACHA EXPO」が開催されている。会場内には人気のカプセルマシンが200種が設置され、10,000個のカプセルトイが販売されるほか、人気のカプセルトイはシリーズ別にコンプリート展示されている。
企画・製作を手掛けたエイチ・ツー・オーカンパニー代表の池田さんによると、同展の目的を「ゴールデンウィークを挟み、賑わいを見せるこの時期に、買い物ついでに数多くのガチャガチャに触れ、親しんで欲しい」と話す。アイテムはラフォーレ原宿の客層を意識したラインナップを揃えたほか、場内の照明もカラフルでポップな印象に仕立てた。
人気アイテムを見ると、イラストレーター「森チャック」の「つるしぐま」「クマキカイ」「グルーミー」のフィギュアシリーズのほか、「ディズニー」「リカちゃん」がラフォーレ層に好評。少し上の世代では、ソニー・クリエイティブプロダクツの「タイムカプセル」シリーズや「学研 科学と学習ミニコレクションパート1 」などの人気が高い。また、コナミが「脱カプセル」で「箱形」の「ドラゴンキューブ」(500円)を出展し、同展での注目度を頼りに今後の展開を検討するという。会場内では、子供以上に真剣にマシンに向かい合う親の姿も少なくなかった。池田さんは「カプセルトイは、何気なく訪れただけでも、ついついコインを入れてみたくなるのが魅力。手ぶらで会場を後にする来場者はほとんどいない」とガチャガチャの「吸引力」に触れる。
最近の「ガチャガチャブーム」の再来について池田さんは、以下のように分析する。
こうしたアイテムの進化が、周囲から『子どもっぽい』と映るかもしれないという抵抗感を払拭し、大人のマーケット拡大を後押ししてきたとも言えそうだ。「極端に言えば、近年のブームを支えるガチャガチャ利用層は『「かわいいキャラクター目当ての女子小中高生」と、『昔懐かしのヒーローに再び目覚めた30~40代男性』に二極化するとも付け加える。入場は無料。
ラップネット エイチ・ツー・オーカンパニー 森チャック「ガチャガチャ」の魅力は、「何が出てくるか分からない」という一種のギャンブル性を、ハンドルを回すという動作で興奮を高めつつ、しかも数枚のコインで味わえる点にある。玩具店やゲームセンター以外にも続々とマシンが進出する背景には、その「応用性の高さ」に注目が集まっていることが挙げられる。「アーノルド・パーマー」のように「意外」な店の前にたった1台だけ置けば、「何が入っているのだろう」といった興味を誘う。ミニシアターのロビーに置かれていれば、期間限定の「プレミア」感が醸成できる。「ガチャガチャ」は、設置場所や中身の企画次第で、どこまでも可能性の広がる効率的な集客装置となり得るのだ。「ガチャガチャ」はフォーマット化されたコミュニケーション・ツールとして、新たな進化を遂げていく。