1997年は、街中のいたるところに設置され、幅広い年齢層が一度はプレイしたことがあった「プリクラ」の第一次ブーム期。その後、一時はプリクラ需要も落ち込みを見せたが、2000年から第二次ブームが起こった。1995年に初の写真シール機「プリント倶楽部」を発売し、プリクラブームの先駆者となったゲームソフト会社=アトラス・アミューズメント事業本部、マーケティンググループの林野さんに話を聞いた。「プリクラ機が大型化し、全身を写せるタイプのものを開発したことがきっかけで、プリクラが専門コーナー化し、アミューズメント施設の中に女性専用のコーナーも出現した。様々な機能の進化や、衣装を貸し出してプリクラが撮れる『コスプリ』などの出現により、アミューズメント性の高まったことが第二次ブームの特徴」と、説明する。しかし、ブームとブームの間にも、変わらず撮り続けていたのが女子中高生だという。その理由については「10代女子の間では、プリクラを名刺代わりに新しい友達と交換しあったり、その日の出来事をプリクラに思い出として収め、日記代わりにプリクラを貼った手帳=『プリ帳』を作成する・・・といったことが習慣化していたため」と、林野さんは見ている。
現在のプリクラ機は昔と比べてかなり高画質になり、プロ使用のストロボを搭載するなど、その機能が本格化している。そのため、顔に光が当たって欠点を隠せたり、美肌効果があったりと「実物よりも美しく撮れる」のが特徴。また、アトラスで一番人気の機種は「ヒカル ミュージックパーティー」で、プリクラを撮影する間ヒット曲が流れ、音楽にノッて楽しく撮影できるというもの。「女子中高生の行動パターンを調査したところ、学校帰りはファストフード店に行き、カラオケをし、プリクラを撮るというケースが多かった。そこでカラオケの要素も取り入れ『ノリノリで』盛り上がったところを撮れるような機種を開発したところ、見事に当たった」と、林野さんは話す。「ヒカル ミュージックパーティー」は、カメラが正面の1カメと斜め前の2カメの2台あり交互に撮れるため、アイドルになった気分で撮影できる。10代女子にとってプリクラは、擬似アイドル気分に浸れる「時間消費」の側面が強いことも垣間見える。
そんな今、女子中高生の間で流行っている撮り方が「変顔(へんがお)」と呼ばれるもので、その名の通り「変な顔」をして撮るのだという。「かわいい顔をして『キメ顔』を撮った上で、普段は見せないような『変顔』も撮り、『こんなにかわいい子がこんな変な顔をする』というギャップをお互いに楽しんでいる」と林野さんは言う。たとえばアヒルのように唇を尖らせるなど、変な顔をしても美しく撮れるプリクラの場合は、それなりにかわいく見える。プリクラを撮り慣れてしまった10代女子ゆえに生み出された、笑いを求めるという新しいプリクラの楽しみ方なのだろうか。また、アイドルの写真集を手本に、カメラ目線ではなく少し視線をずらしたり、背景に合わせてストーリー作りをしたりするのも最近の傾向だそうだ。例えば、海の背景でしぶきが上がっているものはそれを避けようとするポーズを撮り、ジャングルの背景では太陽を眩しそうに見るなど、巧みに演技をする。林野さんはそんな10代女子を「いろいろな自分を見せたいという思いや、自分を使って何かを表現したいという願望があるのでは」と推察する。プリクラ機の進化に合わせて、撮り方や楽しみ方を次々と発展させていくことができるのも、10代女子の特性と言えそうだ。
アトラス渋谷区道玄坂にあるアミューズメント施設「セガ 渋谷ギーゴ店」の2階に、女性専用のプリクラ専門コーナー「スタジオセガ」がある。同コーナーの担当者である雨宮さんに話を聞いた。「平日は約200人、土日は300~400人の来店客がある中で、夜8時までの間は8割が女子中高生」とのこと。また、同店では1年半前からコスプレ衣装の貸し出しを無料で実施しており、現在の会員数は1万人を超えた。1番人気のある衣装はセーラー服で、最近ではウィッグの貸し出しも始めた。来店する女子中高生の様子について「最近はプリクラ機の中につり革があり、ぶら下がって撮ることができる機種などもあるため、撮影をしながらはしゃぎ、暴れている子も多い」と雨宮さんは話す。プリクラを、撮っては切り分けながら話し込み、飽きたらまた撮影するといった具合に、グループで2時間ほど滞在する女子も多いという。
実際にスタジオセガに来店した10代女子に聞いた。現在高校3年生、17歳のナオちゃんは、「高1まではプリクラを撮ったことはなかったけど、卒業することを考えてから、もう会えなくなっちゃう友達とかと今のうちに撮っておこうと思った。今は週に1回はプリを撮りに来る」と言う。ナオちゃんと一緒に来ていたシオリちゃん(17歳)は「プリは2日に1回、多いときは毎日撮る。最近気に入ってる撮り方はジャンプ。ポーズが尽きたらとりあえず飛んどく?って感じ」。2人共、分厚いプリ帳をいつも持ち歩いていて、初めて友達になった子とは必ず見せ合いをするのだそうだ。「友達としゃべってて話題がなくなった時、プリ帳があれば話がつなげられる」と言うのはシオリちゃん。一緒に映っているのは誰で、撮ったのはどこで、どんな機種だったなどと話をするのだそうだ。友達との会話をつなぐアイテムとして、彼女達にはプリ帳は今や欠かせなくなっている。
16歳のサオリちゃんとミサキちゃんの2人は「プリを撮るのは2週間に1回くらい。いつも格好よく見えるポーズを研究している」と言う。なぜプリクラが好きなのかという質問には「撮っているときが楽しいし、思い出が残せるから」と話す。さらにサオリちゃんは「20代前半くらいまでならたまに撮るかもしれないけど、よく撮るのは10代のうちだけ。私らは今が一番いいときで、それを残しておきたいから。今が花だよ」と話していた。女子中高生同士の会話では、ごく最近のことでもすぐに「昔」と言うのが特徴的だ。若い頃はとくに時の経過を早く感じるものだが、それに焦りを感じるかのように、プリクラによって一瞬一瞬を思い出として刻みたいという思いが、10代女子の中では潜在的に強そうだ。
SEGA(セガ) スタジオセガ角川春樹事務所発行の女子中高生向けファッション誌「ポップティーン」では、7月31日発売の9月号の企画で、読者の写メ募集を行う。編集部の中西さんに企画の狙いについて聞いた。「10代女子の間では、写メで自分撮りをすることが急速に流行ってきている。用途によって撮り分けている彼女達が、一体どのような写メを撮っているのか、系統立てて紹介しようというのが企画の狙い」と、説明する。女子中高生が自分撮りする写メの用途には、例えば新しい友達と携帯番号を交換するときに添付する「自己紹介用」、彼氏好みの顔で撮影して彼氏の待ち受け画面用に送る「彼氏用」、仲の良い女友達同士で交換する「変顔」などのほか、自分で見て楽しむ「日記用」などもある。女の子同士では変顔の写メ交換が今は一番盛り上がっているそうだが、彼氏の場合は彼女の顔写真を友達に見せることもあるため、自分の一番かわいい顔を送るそうだ。かわいく撮るコツとしては、ピースサインを裏返して手の甲を見せる「裏ピース」と、アゴを引き気味に上目遣いをすることが、小顔に見せるための基本だ。実際よりも可愛く撮れた写メは「盛れたよ~」「盛った写メ」などと言って彼氏や友達に送って自慢するのだという。「スタジオセガ」に来ていたシオリちゃんも、写メで自分撮りよくするそうだ。自分や友達の変顔を撮っておき、暇なときに見るのが楽しいと言う。また、友達の中には出会い系サイトなどで知り合った顔の知らないメル友に送るための「自己紹介用」を撮っておくという子もいるとか。「旅行とかに行けばカメラで写真を撮るけど、普段はそこまでしない。でも、日常の何でもないときの自分も残しておきたいから、そんなときは写メが便利」とシオリちゃんは話す。
また、ポップティーン編集部では毎月1回、渋谷の109付近で「スナップボンバー」と題し、素人の10代女子を撮影している。毎回数時間で50人ほどの女の子を撮影するそうだ。彼女達はプリクラや写メで、さぞ撮影慣れしているのだろうと思いきや、意外にも「プロのカメラマンやスタッフを前にすると、どうしたらいいのかわからなくなる子のほうが多く、カメラマンやスタッフがポーズを指示して盛り上げている」と中西さんは言う。それでも雑誌に載りたがる10代女子は多く、同編集部にも読者モデル希望の女の子から随時連絡が入るそうだ。中西さんは「雑誌に載りたがる10代女子は、友達に『雑誌を見たよ』『載ってたね』と言われるのが嬉しいらしい。雑誌にはかわいい子しか載れないことから、友達の中で優越感を感じたいという気持ちもあるのだろう」と推察する。シオリちゃんの話では「学校で雑誌に載った子は、同級生の場合は何とも思わないけど、後輩とかから慕われることが多いみたい」と言っていた。
「10代女子にとってはプリクラも写メも、コミュニケーションツールとしてのマストアイテム」と中西さんは言う。女子中高生が普段持ち歩いているプリ帳を新しい友達と見せ合うのは、共通の知人を探すのが目的である場合も多いそうだ。「この人知ってる」というセリフが、彼女達の距離を近くするのかもしれない。「プリクラの多さが友達の多さ」「自分は多くの人に顔を知ってもらっている」といった競い合いもあるのだろう。友達がたくさん欲しいという願望のため、あるいは既存の友達とのつながりを保つために、10代女子は自分の写真を撮り続けている。
Popteen(ポップティーン)輝く10代の思い出を撮り溜めする以外に、話のつなぎに、自己紹介用にと・・・10代女子は巧みにプリクラや写メを使い分けている。プリクラ世代の10代女子の間では、顔写真はまさにビジュアルIDでもあり、顔写真を起点に友達の輪を広げるツールと化している。10代女子の「自分撮り」ニーズは、ますます高まりそうだ。