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長さ100mのレッド・カーペットが登場!
渋谷の街が映画祭に染まる9日間

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■石原都知事の提案で登場!100mのレッド・カーペット

今年も渋谷の街は映画祭のシーズンを迎える。今年は11月1日から9日まで、9日間の日程で、東急Bunkamuraを主会場に第16回東京国際映画祭(以下T.I.F.F)が開催される。T.I.F.Fは、国際映画製作者連盟公認のもとに1985年より開催しているもので、世界12大国際映画祭のひとつであり、アジア最大の国際映画祭でもある。T.I.F.F.では、メイン企画のひとつであるコンペティション部門で、1回目より優秀若手監督に賞金を授与し、彼らの製作活動を支援してきた。ちなみに第1回(1985年)の「ヤングシネマ大賞」受賞作品は「台風クラブ」(相米慎二監督)だった。

第16回東京国際映画祭
第16回東京国際映画祭

今年の目玉は、東急本店正面入り口付近からBunkamuraエントランス前まで、約100メートルに渡って設けられる「レッド・カーペット」。11月1日の13時より交通が規制され、15時からオーチャードホールで始まるオープニングセレモニーを前に、内外から招待されセレブや映画関係者らが多数の報道陣の中、続々と登場する。このレッド・カーペットは、石原慎太郎都知事の「国際的な映画祭なのに赤いカーペットがないのはおかしい」との提案を受け、今年から就任した角川歴彦ゼネラル・プロデューサーが実現したもの。Bunkamura前にクルマを横付けしていた例年に比べ、この「100メートル」の演出が華やかさを演出する。この模様とオープニングセレモニーは、ハチ公前の109-2ビジョンや六本木ヒルズアリーナでもライブ中継される。クロージングイベントでは、海をモチーフにした「ファインディング・ニモ」にちなんで「ブルー・カーペット」が設けられる予定だ。

T.I.F.F.のメイン・プログラムのひとつでもあるコンペティション部門の応募条件は、2002年7月1日以降に完成した35ミリの長編作品。今年は世界51の国と地域から363本のエントリーがあり、予備選考を経た15本が上映される。日本からは田中麗奈、妻夫木聡主演の「きょうのできごと」(行定勲監督)、「ほたるの星」(菅原浩志監督)、「ヴァイブレータ」(広木隆一監督)の3作品が選ばれた。上映後、映画プロデュ-サ-を含む5人(内、日本人1名)で構成される国際審査委員会による審査を行い、東京グランプリ、審査員特別賞、優秀監督賞など6賞が閉会式会場で発表される。ちなみに「東京グランプリ」には8万ドル、「審査員特別賞」には2万ドルが賞金として贈呈されるほか、「東京グランプリ」と「優秀監督賞」には、東京都知事から賞状とトロフィ-(騏麟像)が贈られる。

第16回東京国際映画祭 第16回東京国際映画祭

もうひとつのメイン・プログラムが、国内未公開の話題作を上映する「特別招待作品」の上映。今年は内外から22作品が上映される。中でも注目はオープニング作品として上映される「阿修羅のごとく」(森田芳光監督)で、同映画祭のオープニングを邦画が飾るのは、実に11年ぶりのこと。また、「ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS」(手塚昌明監督)が、ゴジラの誕生日でもある11月3日に上映される。その他、国内作品では釈由美子主演の「スカイハイ劇場版」(北村龍平監督)、柴咲コウ主演の「着信アリ」(三池崇史監督)にも注目が集まる。今年のT.I.F.F.では、コンセプト面で大きな変化が生まれた。「今までは、わざわざハリウッド映画を招聘したりしていたが、今年からは、世界に向けた日本映画やアジア映画の発信を目指す」(広報宣伝担当の金子さん)と話すように、日本映画の招待作品も華やかなものが多いのが特徴となっている。

阿修羅のごとく(オフィシャルサイト) ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS スカイハイ 劇場版 着信アリ
阿修羅のごとく

海外作品では、仏映画「ミシェル・ヴァイヨン」が11月8日、世界に先立ちワールドプレミア上映され、プロデューサー兼脚本のリュック・ベッソンやパスカル・クヴレア監督、出演者の来日が予定されているほか、「モンスターズ・インク」を製作したピクサー・アニメーション・スタジオの最新昨「ファインディング・ニモ」がクロージング・スクリーンを飾る。

ミシェル・ヴァイヨン ファインディング・ニモ
ファインディング・ニモ

■各地の地域映画を集めた「リージョナル・フィルム」に注目

日本映画の発信を違った角度から捉えた企画も新たに登場した。QFRONTにある渋谷シネフロントを会場に開催される「ニッポン・シネマ・フォーラム(NCF)」は、MIJ(Made in Japan)なフィルムイベント。中でも、今年から新設された「リージョナル・フィルム」に注目が集まる。この企画では北海道から沖縄までの7つの地域から選ばれた「地域映画」7作品(うち新作5本、旧作2本)が上映される。この「地域映画」という言葉にはまだ馴染みが薄いが、同映画祭では、東京の製作スタッフが地方に出掛けて作った、いわゆる「ご当地映画」ではなく、企画立案や資金調達など、「何らかの意味において、地域性を制作者が積極的に背負っている」作品と定義付けている。パンフレットには各上映作品の「地域撮影度」「地域経済度」「地域文化度」「地域参加度」といった4つの指標で「敢えて」分析したレーダーチャートも記載するなど、手探りながらも「地域映画」から、日本映画の未来のビジネスモデルを探る意欲的な試みに期待したい。

中でも「river」は、T.I.F.F.の中で最も問い合わせの多い作品。内容は、北海道テレビのローカル番組「水曜どうでしょう」で人気を集めた大泉洋が主演するダークなドラマ。スタッフの9割が道産子で、道内の「ローソン」と流通面で提携したり、わざと東京に過度な情報を流さず、東京を一種の飢餓状態にするなど「今回の7作のなかで戦略に関してはトップクラス」(NCF事務局 樋野さん)で、11月29日から公開予定のシネリーブル池袋の前売り券販売数が異例の600枚を記録し、現在も記録を更新している。ちなみに、同作品のチケットはオークションサイトで2万円を超すプレミアが付いている。同じく、地域で映画制作を継続するための戦略性を有する「ガキンチョ★ROCK」は、「関西から全国に笑顔を」をスローガンに吉本興業がスマイル・シネマ・プロジェクトを発足させ、その第一弾となる作品だ。

river ガキンチョ★ROCK
river ガキンチョ★ROCK

「HAZAN」は、孤高の陶芸家・板谷波山の半生を画いた作品で、「地雷を踏んだらサヨウナラ」等を監督した五十嵐匠がメガホンをとった。同作品では、映画に関しては全くの素人である茨城県の有志が自治体を巻き込み製作委員会を形成し、友部町に広大なロケセットまで作ってしまった作品。上映から宣伝に至るまで地域の人々が主体となっている。島根県の義肢装具製作会社、中村ブレイスの出資によって作られた「アイ・ラヴ・ピース」、車椅子バスケット世界選手権の開催地となった北九州市を舞台とする「ウィニング・パス」も、それぞれ地元経済を巻き込んで完成した作品。ちなみに「アイ・ラヴ」シリーズ前2作は、全国巡回上映で108万人の動員実績を誇る。

HAZAN アイ・ラヴ・ピース ウィニング・パス
HAZAN ウィニング・パス

旧作からは、淡路島出身の阿久悠原作による「瀬戸内少年野球団」と、沖縄をテーマに精力的に作品を撮り続ける新城卓監督による「秘祭」が上映される。「秘祭」は原作の石原慎太郎が初めて脚本を手掛けた問題作で「沖縄の監督にしか撮れない、凄みのある画が魅力」(NCF事務局 樋野さん)の作品だ。

秘祭(新城卓事務所)

NCF事務局の樋野さんは、「リージョナル・フィルムは、企画アイデア、企画の意義などの面でT.I.F.F.の中でも端児的な面白さがあると思う」と話す。さらに「地域映画を集めていく過程で、地域で映画を作ろうという人たちの熱意を強く感じた。リージョナル・フィルムは全国の『地域映画人』の交流の場にもしたい。今年は第1回目だが、回数を重ねながら地域映画のレベルアップに貢献したい」と、企画に対する抱負を語ってくれた。

「ニッポン・シネマ・フォーラム」のもうひとつの新設部門「メディア・セレクション」もユニークな企画だ。「映画興行の動向を左右する女性客の今日の気分を一番知っている媒体は女性誌だろうか・・・?」「その女性誌に映画祭の上映作品の選定を『丸投げ』したらどうなるのだろうか・・・?」と、かなり大胆なコンセプトを背景に、今秋から来春にかけて公開を予定している日本映画7作品を女性誌「FRaU(フラウ)」がセレクトし、上映される。みうらじゅん原作のコミックで、バンドの成長を画いた「アイデン&ティティ」(12月中旬ロードショー公開)も、上映作品のひとつ。監督は田口トモロヲ。

アイデン&ティティ
秘祭

■T.I.F.F.を盛り立てる多彩なサテライトイベント

T.I.F.F.は、渋谷以外のエリアにある各会場でもイベントが開催される。恵比寿ガーデンプレイスにある東京都写真美術館では「日本アニメーション ~Japanimationの誕生から未来へ~」が開催される。世界的に評価の高い日本のアニメを多角的に検証する企画で、11月4日はシンポジウムも交えて「スタジオジブリデー」となる。同じく東京都写真美術館では、「ピアノ・レッスン」や「シャイン」などの成功で発展するオーストラリアの秀作を紹介する「オーストラリア・フィルム・フォーカス」も開催。オーチャードホールとシアターコクーンが会場となる「アジアの風」では、日本で大ヒットを記録した「リング」の韓国版リメイク作品「リング・ウィルス」(監督:キム・ドンビン)が上映されるほか、「『魅せられて』前夜-ジュディ・オングの台湾映画時代」は、「魅せられて」でブレークする直前、台湾映画で活躍していた時代のジュディ・オング主演作品を上映するもので、同映画祭広報宣伝担当の金子さんは「女優としてのジュディ・オングが見られる稀少な機会なので、『魅せられて』しか知らない若い人にも是非観て欲しい」と話す。協賛企画では、昨年まで渋谷パンテオンで開催されていた東京国際ファンタスティック映画祭が、東急文化会館の閉館により今年から会場を新宿ミラノ座に移して開催される。オープニング作品は「もし1909年に伊藤博文が暗殺されていなかったら朝鮮半島はどうなっていたか?」をテーマに日韓俳優の競演による近未来アクション作品「ロスト・メモリーズ」が飾る。

ロスト・メモリーズ

T.I.F.F.の期間中は、映画館以外も渋谷の街は映画一色に染まる。開催期間中、Bunkamura正面入口付近、東急本店前、東急東横店前の3カ所にインフォメーションブースが設けられ、最新のスケジュールや作品情報を入手できるほか、設置されたモニターで予告編を観ることができる。また、特別上映作品の「エイリアン ディレクターズ・カット版」にちなんで、Bunkamura1階ギャラリーで・スペースで「エイリアン・コレクション展」を開催、エイリアンの「原寸大」卵やフェイスハガー、エイリアンの生みの親でもあるH.R.ギーガーのスケッチなどが展示される。同ギャラリーでは「世界の映画祭ポスターギャラリー展」も開催される。さらに、東急本店1階では「世界の映画祭、映画賞の中の日本映画と映画人展」を開催、受賞のトロフィーや記念像などを展示する。

今年は、増え続ける携帯マーケットに連動して、特別協賛のNTTドコモの協力により、情報提供面でモバイルとの連携が進化しているのも特徴。昨年より導入された電子チケットは今年も引き続き採用されているほか、今年からはT.I.F.F.のポスターやチラシに印刷された二次元バーコードをドコモ505iシリーズの一部機種のカメラで読み取ると、映画祭オフィシャルiモードサイトURLがそのままブックマークされる試みを追加された。さらに、100メートルのレッド・カーペットの上で繰り広げられるオープニング・クロージングセレモニーなどのライブ映像や作品予告編などが、FOMAの端末向けにライブ配信される。その他、NTT東西各社が提供する「フレッツ・スクエア」と検索ポータルサイト「goo」でもライブ中継が予定されている。

goo「東京国際映画祭 2003」公認サイト
インフォメーションブース インフォメーションブース FOMAの端末向けにライブ配信

■渋谷以外にも秋の都心部を彩る映画祭の顔ぶれ

この時期、都内ではT.I.F.F.以外にも様々な映画祭が開催される。11月22日から30日まで、有楽町・銀座エリアと六本木ヒルズを会場に繰り広げられる「東京フィルメックス」は今年4回目を迎える。メイン・プログラムとなる「東京フィルメックス コンペティション」では、2002~2003年に製作されたアジアの新進作家の9作品を上映し、審査の上、11月30日に各賞が発表される。世界の映画製作のトレンドを示す新作を特別上映するほか、生誕100周年を記念して、巨匠・清水宏監督の作品、10作品が特集で上映される。同監督は戦前・戦中の松竹を代表する監督で、1924年から1959年にかけ全163本を監督した。戦後は独立プロでの映画作りの先駆けともなったことで知られる。さらに、世界的にもほとんど上映の機会がない、イスラム革命前のイラン映画も、60~70年代作品から中短編含め全7作品を上映するなど、映画好きを唸らせる企画が並ぶ。

東京フィルメックス

今年は、世界中にファンを持つ小津安二郎の生誕100周年と没後40周年を同時に迎える年でもある。これを記念して、東京国立近代美術館フィルムセンターは松竹と共同で、11月18日から12月27日までと1月6日から1月25日まで、「小津安二郎の藝術 ~Yasujiro Ozu:Japanese Film Master~」が開催する。このイベントでは、小津安二郎の現存するすべての監督作品37本と小津が原作や脚本を提供した別の監督による4本を36番組に構成して連続上映するもの。12月には海外評論家や女優を招いたシンポジウム「OZU2003」も開催を予定してる。

小津安二郎100周年記念

渋谷は、大手配給会社系のロードショー上映館だけでなく、多くのミニシアターが集積しており、映画ファンの裾野が広いだけでなく、その奥行きが深いのも特徴だ。渋谷を舞台に繰り広げられる東京国際映画祭は、こうしたファンに新しい作品との出会いを提供する格好の機会を提供している。今年はコンセプトを大きく変え、全体を通じて日本やアジアの作品を世界のマーケットに向けて広く紹介する姿勢を打ち出している点が特徴だ。今年のT.I.F.F.では、海外の秀作に触れるのと同時に、国内の作品を発掘する新しい楽しさが加わったと言えそうだ。

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