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「亜熱帯化」対応で広がる有効活用
渋谷の屋上ビジネス・ウォッチング

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■ヒートアイランド現象が東京の「亜熱帯化」を加速する

酷暑が続いている。8月に入ってからも、都内では連日35℃を記録。気象庁は8月10日、気温上昇を分析し、「東京の平均気温が100年で3℃上昇した」と、結果を発表した。それによると、日本の大都市の年間平均気温は1901年から2000年までの100年間で2.5℃上昇。東京では3℃も上がっているという。中小規模の都市の上昇温度が1℃であることを考慮するなら、東京の3℃は異常な事態である。同庁は「東京の気温上昇は、ヒートアイランド現象が要因ではないか」と見ている。

一方、気象庁の発表からさかのぼること1週間前の8月2日、英国気象庁の気象専門家、ホートン気候調査研究員が「2002年の世界の平均気温は、史上最高となる可能性がある」と発表した。同研究員は「今年1~6月は約150年の観測史上2番目の温暖な気候となり、世界的に2002年は2001年より温暖となる可能性が高く、1998年の史上最高記録を破るかも知れない」と述べている。さらに各国の研究者でつくる国連の「気候変動に関する政府間パネル」は今年、今世紀末には地球の気温が最大で5.8度上昇するとの予測値を明らかにした。「地球温暖化」に歯止めがかからず、このまま気温上昇が続くと、南極の氷山の融解などによって海面が上昇して島国が水没する一方、農業生産量の減少、マラリアなど熱帯性感染症の拡大などの影響が予想される。

近年、いたるところで耳にする「地球温暖化」と「ヒートアイランド現象」。前者は温室効果ガス増加などが主因となり、地球の気温が上昇する現象のことで、後者は人間活動の活発な都市部で「島状」に気温の高い部分ができる現象のこと。都会で発生する「ヒートアイランド現象」は、自然環境と冷房が主因。緑地や水面が減り、コンクリートやアスファルトが増えると、地表面が高温になり、気温が上昇する。気温が上がると、冷房などの需要が増し、その排熱が気温を一層上昇させる。こうした悪循環が「ヒートアイランド」をさらに深刻化させている。これらのことから、世界じゅうの気温が上昇し、肝心の日本でも「亜熱帯化」が進んでいることがわかる。

直射日光が当たる昼間、気象庁が発表する気温36℃の時、実は屋上の気温は50℃を超えている。太陽光線を遮るものがなく、地面より先に太陽の熱を浴び、高熱を帯びる屋上。日中は足を運びたくない場所のひとつだが、渋谷ではこの屋上を有効利用したビジネスが着実に広がっている。解放感にあふれる特別な空間に着目した飲食業やサービス業、屋上緑化を推進する行政、屋上を舞台に発展を遂げるエコビジネスや建設業など、参画する企業や施設はバラエティーに富んでおり、それぞれのアプローチも興味深い。

■新たな展開を見せる、屋上飲食店事情

雨が多く、四季の寒暖の差が激しい日本。雨天の営業やオールシーズンの使用の困難さ、特別な設備投資がかかることなどから、屋上は商業施設としては敬遠されてきたが、梅雨明け以降の夏期は雨が少なく、百貨店の屋上では長年ビアガーデンとして利用されてきた。いわば「夏の風物詩」のひとつである。そんな中、渋谷のビアガーデンは今年、新たな展開を見せている。

「東急東横店」西館9階・東急レストラン街からつながる屋上オープンテラスでは、今年はビアガーデンでなく、9階レストラン街の「西洋料理Demy」がテラスを使って「西洋料理ビアテラスDemy(デミ)」を営業。17時~22時30分。雨天の場合は中止。「ビアガーデン」と謳っていないのは、リニューアルに伴うコンセプト変更による。「Demyの食事を食することができるテラス」(東急百貨店)とい位置付けているため、どこにもビアガーデンという表記はない。それでも「ビールを飲む人を優先しており、この暑さも手伝って連日好評」(東急百貨店広報室)とのこと。生ビール(中)450円、生ビール(大)770円。「西洋料理ビアテラスDemy」としての営業は8月末日まで。

一方、屋上緑化が進む東急本店の屋上には、屋上庭園とガーデニングショップが広がり、ガーデニングコーナーを利用して、夏季限定のビアガーデン「緑と花のビアガーデン」(120席)が開かれている。こちらは「穴場的な店で、喧騒を離れてゆっくりしたい大人の方とグループに好評」(東急百貨店広報室)とのこと。120席というキャパシティから、グループ需要が多く、10名以上のグループにサービス特典をつけるなど、グループ客に対応している。

東急百貨店
東急東横店・屋上オープンテラス 東急東横店・屋上オープンテラス

「Dogenzaka Lounge&LOOF」(道玄坂)は、道玄坂を上りつめたビルの最上階と屋上に広がる飲食空間。9階「Dogenzaka Lounge」はゆったりとしたソファ席を擁したラウンジ。22時以降は会員制となっている。10階(屋上)「LOOF」は渋谷の夜景を一望できる、南国リゾート風の屋上オープンテラス。バーカウンターとテラス席は、雨天でも営業ができるよう屋根が設けられている。メインフロアの上には、さらに屋上デッキが設置されており、風に吹かれながら夜景を楽しむことができる。「Dogenzaka Lounge」は1996年にオープン、その3年後、屋上に「LOOF」が完成した。店長の森田さんは「何もなかった屋上にカウンターを付けたら利用客が増えた。口コミで広がり、カップルや女性グループが多く、芸能人の利用も多い」と話す。「LOOF」マネージャーの上里さんは「屋上の店は、ビルの中にある店とまったく違う空間。屋上にあるということだけで差別化ができ、夜景を眺められるという付加価値がある。屋根もエアコンもないが、雨天対応開閉ルーフを備えているので雨はしのげるし、風があるので夜は意外に涼しい」と語る。週末は満席状態。一度訪れた利用客が次に友人や恋人を連れて来店するケースが多いという。

Dogenzaka Lounge&LOOF TEL 03-3770-0008
Dogenzaka Lounge LOOF

使わなくなった屋上の管理人室を改築した「クワランカ・カフェ」(宇田川町)は2001年4月に開店。スペースの有効利用が効を奏して「宇田川町の屋上カフェ」は林立するカフェの中でも差別化を果たしている。穴場感覚とともに、屋上にカフェがあるという意外性が若い女性を中心に支持されている。当初、屋外フロアに屋根がなく、雨天には利用できなかったが、冬に屋根が付いた。これでインドアとアウトドアのスペースが完成し、双方にメリットが生まれた。オーナーの稲垣さんは「夏場の昼は、とても暑いので中で過ごす方が多いが、中は禁煙、外は喫煙可なので、煙草を吸いたい方は外を選ぶ」と、分煙化による効果を語る。テラスは冷房が効かないため2台の大型扇風機を設置。すだれと扇風機で暑さは随分やわらいでいる。日没後は「開放感にあふれる外のテラスが人気」という。

クワランカ・カフェ

「渋谷パルコ パート1」7、8階の「パルコダイニング&ガーデン」にも屋上テラスをしつらえた店がある。8階の「DEN Rokuen-Tei」は東京和食を提案するレストラン。テラスでも食事ができるようテーブル席がセットされ、こちらも好評とのこと。

パルコ

屋上やルーフテラスの飲食店は、ロケーションだけで差別化ができる稀有なケース。雨天対策は必要だが、開放感はインドアの店と比べると別格。また、夜景を借景として利用できる点は付加価値が高く、どの店も夜の集客が高い。熱帯夜が続くとはいえ、日没後は、やや涼しくなることと、ビルの屋上は風が吹き渡ることから、意外に熱さは感じない。夏場は、特に屋上の飲食店は人気が高いようだ。

クワランカ・カフェ

■屋上スポーツ施設は真夏もフィーバー

2001年7月に開業した、東急東横店西館屋上の「アディダス フットボールパーク渋谷」は、屋上の有効利用とスポーツを媒介としたエンタテイメント施設の開発という両面で、W杯開催以降も高い注目を集めている。東京急行電鉄が開発し、グループ企業の東急スポーツシステムが運営。2001年4月に開業した「アディダス フットボールパーク横浜金沢」(横浜市)に続く施設で、フットサルクラブとサッカースクールを併合した新しいタイプの“屋上都市型サッカーパーク”としては前例がない。「アディダス フットボールパーク」は、2002年FIFAワールドカップのオフィシャルパートナーで、サッカー日本代表チームのオフィシャルサプライヤーでもある「アディダス ジャパン」と提携して展開を図っている。人工芝やナイター設備、シャワールームなどを完備し、都市型エンタテイメント施設として充実している点も見逃せない。

渋谷に開業した理由は「流行に敏感な若者層が多く集まり、都内有数のビジネス・商業の集積地であること、また、鉄道7路線が通る交通の要衝であり、さらに、周辺に松濤や南平台といった優良な住宅地を後背地として持っていることから、サッカースクール需要や、学生や企業内の同好会的なチームへのコート貸し出し需要が充分に見込めるなどといった背景があるため」(東急電鉄)。W杯開催以降もサッカー人口の定着と拡大に余念がない。8月10日には「早朝サッカー教室」を開催、8月21日、28日には「ナイターサッカー教室」を開く。スタッフの伊藤さんによると「サッカー教室の反応はよく、この猛暑の中でも利用客は減るどころか、伸びている」という。夜の部は予約率100%、月、火の日中も予約で埋まっている。「月、火は休みとなるショップが多いことからショップの方が多く、昼間は総じて学生の利用者が多い」(伊藤さん)。W杯の熱気はそのまま受け継がれ、若者にとって昼間の炎天下にボールを蹴ることは、まったく苦ではないようだ。

アディダスフットボールパーク渋谷

都内ではビルの屋上に「フットサル」のコートを設置するところが増えている。利便性の高い百貨店や商業ビルの屋上の有効利用は、新たに開発する土地が少なく、地価の高い都心部らしいアイデアである。特に5人制サッカーの「フットサル」は少人数でも楽しめるスポーツで、接触プレーを禁止していることから子供や女性にも安全なスポーツ・エンタテイメントとして認知度がアップしている。都内では屋上に設置したテニスコートの空き時間を活用して、フットサルコートに変身するケースも登場している。

アディダス フットボールパーク渋谷 アディダス フットボールパーク渋谷

■様々な角度から語られる「屋上緑化」の現状

屋上の有効利用のひとつで、商業施設としての利用以外に近年、注目を集めているのが「屋上緑化」。ガーデニングブームのみならず、「屋上緑化」は下記の5つのポイントで捉えることができる。

  1. 省エネ推進・地球温暖化防止=ビルの屋上に樹木を植え、ガーデニングを行うことで、その断熱効果による省エネルギーやビルの劣化防止や気温の上昇防止になる。
  2. 国、地方自治体の取り組み=東京都は2000年、敷地面積1000平方メートル以上の民間ビルと、250平方メートル以上の公共物ビルの屋上を対象に、敷地面積の20%以上の緑化の指導を決定。一方、建設省は企業が屋上に緑化施設をする場合、事業所税の軽減を含む税制改正の検討を始めた。今日では、屋上緑化に対して助成金を出す自治体も出現。
  3. 屋上緑化技術の進化=人口軽量土壌が開発されて、ビルの屋上に樹木を植えたりすることができるようになり、ビル緑化を進めやすくなった。
  4. 精神安定効果=グリーンによる審美的効果による安らぎの向上やストレスの発散作用などの心理効果を生み出し、植物の薬理効果によるアロマテラピー作用(疲労回復、鎮静作用)を利用し、快適感の場を提供。
  5. 環境ビジネスの拡大=建設、治水・給水システム、エネルギー開発、農業、土壌、造園など、屋上緑化ビジネスに参入する企業が増加し、マーケットが拡大。大きな経済効果が期待されている。

地上約100メートルの位置にある「渋谷マークシティ」の屋上で都市緑化の実験を続けている東急建設によると「緑化システムによって屋上から室内に流入する熱量が約80%減少した」という。冷房効果が上がるとともに、ヒートアイランド現象の抑制にもつながるとあって、各界から注目を集めている。同社が提言しているのは「ビオトープ型屋上緑化」。「ビオトープ」とは、多様な生物が生息する自然空間のこと。ドイツ語の「ビオ」(=生物)と「トープ」(=場所)の合成語。野生生物が自然に暮らせる場所を設けて、失われた生態系を少しでも回復することを目的に、日本各地で「ホタルが飛び交うサンクチュアリ」や「トンボが来る池」など、生態系エリアづくりが進められている。中でも屋上で展開する“都市型屋上スタイル”は珍しい。「ビオトープ型屋上緑化」のポイントは、ビル屋上の温度を下げ、さらに地域の生態系を少しでも豊かにするという一挙両得にある。「それが環境的に厳しい高層ビルの屋上で実現できれば、他の場所でもうまくいくはず」(東急建設)と可能性を托している。「渋谷マークシティ」屋上での実験では、植物の生育はスムースに進んでいるという。近年では都市基盤整備公団やコーポラティブハウスの屋上でも「ビオトープ型屋上緑化」が採用されている。屋上を緑と土で覆うことでコンクリートの風化を防ぐ効果のほかに環境問題が加わり、さらに地球温暖化防止、省エネの観点からも大いに注目されている。

東急建設

旧原宿中学校のプールを利用した施設として親しまれているのが、2001年7月に完成した「渋谷区ケアコミュニティ ビオトープ原宿の丘」(神宮前)。屋上緑化の取り組みとして渋谷区が設置した。屋上に広がる25m×8mのプール内には、ハスや睡蓮などの浮葉性植物や、コウホネ、ヨシなどの抽水性植物が植えられ、浮島も作られている。プールサイドには花しょうぶ、セリなど湿地性植物が植えられ、芝草や草花植裁が広がるほか、プールではアメンボやメダカが泳ぎ、トンボがやってくるなど、生態系が再現されている。一般公開しており、入場は無料。

渋谷区ケアコミュニティ ビオトープ原宿の丘 TEL 03-3423-8811
ビオトープ・原宿の丘 ビオトープ・原宿の丘

■渋谷区の「屋上緑化」が全国から注目される理由

渋谷区では2001年、全国に先駆けた「屋上緑化等助成制度」を導入し、屋上緑化推進に努めている。対象となる建築物は「区内で、敷地面積300平方メートル以上に建築される建築物。公共団体の所有するもの、売買を目的としたものは対象外」。助成内容は、敷地面積の20%を超える面積の緑化を行う場合、その超えた部分1平方メートルあたり、下記の金額を助成するというもの。

  • 屋上緑化工事=4,000円(限度額40万円)
  • ベランダ緑化工事=2,000円(限度額10万円)
  • 壁面緑化工事=2,000円(限度額10万円)

さらに区内で、屋上緑化を前提とした家の建築をする人や地上の緑化をする人などに、施工業者(通常工事価格の2割引き)を紹介するという。

2001年6月、神南分庁舎(宇田川町)屋上を舞台にたった一人で「屋上緑化実験」を始めた渋谷区環境清掃部環境保全課緑化推進主査の小嶋さんは、全国に先駆けた行政サービスを実施した職員としても知られている。予算ゼロで320平方メートルの神南分庁舎屋上の緑化に成功し、「屋上緑化の発祥の地」として知られることになった渋谷区。それでは、なぜ屋上緑化に着眼し、どのように推進したのであろうか。仕掛け人の小嶋さんは「緑化は地上部だけでは難しい。ましてや渋谷の都心部では。いかに緑を増やすかと考えれば、屋上や壁しかない。それを利用しようと考えた。しかし、いくら利用しようと提言しても、強制、つまり義務化しないと進まない。それで、条例(渋谷区屋上等緑化助成)を施行した」と説明する。

しかし、決して「押し付け」政策ではない。小嶋さんには「行政サービス」と「地域活性化」の2つのポイントがあった。「条例ができて、あとはタッチしないのが従来の行政のやり方。私は、環境+経営という「環境経営学」に基づき、施工方法など正しい情報を区民に提供するのが行政の役割と捉え、同時に地域の活性化を考え、この2つを合わせて推進した」。神南分庁舎の屋上緑化実験では、約30社もの緑化事業者が無償で施工に協力した。「当時はまだ屋上緑化は認知されていなかった。無駄な税金は使わず、一人でもできる手法を実践した。予算がないので、自分から屋上緑化に携わる施工業者160社に電話をし、無償(ボランティア)での協力を依頼した」と、発想と行動力が原動力であったことがわかる。完成した屋上は、自宅でガーデニングを進めたい区民にとって緑化モデルとなり、同時に屋上緑化を始めようとするビルのオーナーにプレゼンができる“モデル事業”ともいえる。同時に植物の育成状況・適正植物の確認、風による枯葉・土壌の飛散、カラス等の被害など様々なデータ実験も進めた。中でも「室温への影響」に関する実験では、「温暖化防止」と「省エネ」の面で顕著な数字を記録している。外気温度37℃の際に、緑化している真下の事務所の室温は29℃、緑化していない部屋の室温は38℃であったという。

上記の屋上緑化の成果は様々な分野に及ぶ。渋谷区の屋上緑化推進によって、2001年10月1日~2002年6月1日、義務化とした屋上緑化は約9,000平方メートルも(サッカー場の1.5倍)増えた。さらに条例にかかわらない民間の物件でも自主的に36件、緑化面積は1,900平方メートルも増大した。渋谷では1年間に10,000平方メートルもの屋上緑化が進んだのである。小嶋さんは“経済効果“に着目する。「経済効果は相当大きい。当初、造園業だけかと想像していたらまったく異なり、異業種のビジネスの宝庫だった。化粧品メーカー、医療品メーカー、あらゆる部材メーカーが息を吹き返してきた」と、予想を越えた手ごたえをつかんでいる。現在では、無償でいいから神南分庁舎の屋上緑化実験に参加したいという申し出が相次いでいる。さらに経済効果は、渋谷から全国へ波及し、海外からも問い合わせが殺到しているという。小嶋さんは「屋上緑化は渋谷だからインパクトがあった。眠らない街・渋谷は、24時間、熱を発し、夜も気温が下がらない街。もっとも劣悪な環境のもと、屋上緑化を行ったことが認められたようだ。今日では、屋上緑化に成功したということで、“渋谷ブランド”は全国に広まり、渋谷区に会社を移す施工業者もあるほど」と、様々な波及効果に目を細める。地方自治体、業者などが全国から渋谷に「巡礼」するケースも稀ではなく、「屋上緑化」も「渋谷ブランド」のひとつになりつつある。

渋谷区
神南分庁舎屋上 神南分庁舎屋上 神南分庁舎屋上

前出の小嶋さんが執筆した単行本「渋谷の屋上菜園都市化計画」(築地書館刊/1,800円)が今年7月に刊行された。これは神南分庁舎屋上で実施した屋上緑化実験と全国に先駆けた行政サービスの全貌をレポートしたもの。住民への聞き取り調査結果も収載している。

渋谷の屋上菜園都市化計画

■発想力で広がる屋上ビジネスの可能性

異業種から参入した「共同カイテック」(東)は、ユニット式天然芝とプランターを提供する企業。1999年には、屋上展示場を設置し、全国区のビジネスに進出した。前出の「神南分庁舎」の屋上緑化実験にもボランティアで参加し、注目を集めている。ほかにも太陽エネルギーを用いた、学校や公共施設の温水プールの開発や、自宅でのソーラーシステムの普及など、日本の“亜熱帯化”とエネルギー資源の枯渇を予測した新たなビジネスニーズは確実に高まっている。

共同カイテック

「地球温暖化」や「ヒートアイランド現象」による猛暑をポジティブに捉え、積極的に活用している企業と行政は元気だ。ビルの総床面積と比較すると、活用できる屋上面積はごくわずか。物理的にもマーケット的にも“小さなビジネス”と目され、いわば手つかずであった屋上空間には今、中小から大手まで様々な企業が触手を伸ばす。そこには、既存のビジネスモデルが少ないだけに、柔軟な発想が求められる。近年では設計・施工、防水、治水システム、給水システムなどに加え、エネルギー開発、農業、土壌、造園、ウッドデッキ、マットなど、環境ビジネスや屋上緑化ビジネスなど幅広い分野の企業が参画する。特に、24時間眠らず熱を放出する渋谷では、「屋上」は残された数少ない有効スペースであるのと同時にまた、また非日常的な空間でもある。渋谷の名所「五島プラネタリウム」もまた、渋谷駅東口の大規模ビル「東急文化会館」の屋上に昨春まで存在した。(ビル全体は来年6月で閉鎖・解体)。

意外と手付かずの屋上空間にはまだまだビジネスチャンスが大きく残されている。環境ビジネスともリンクしながら、渋谷ならではの柔軟な発想は、どんな「屋上」ビジネスを生み出すのだろうか?

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