特集

注目を集める新・商業空間
渋谷・高架下ビジネス事情

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■「高架下」先駆者は環境をポジティブに解釈する独立系

渋谷駅の真下にあたる、国道246号線沿いの高架下には、とんかつ屋「三裕」と居酒屋「やまがた」が昔ながらの佇まいを見せているが、その「やまがた」の角を曲がり、JRの線路沿いに恵比寿方面に進むと、山手線高架下に個性的な店が現れる。ちなみにこの高架下までが「渋谷3丁目」で道を挟むと「桜丘町」となる。

JR山手線プラットホームの真下にある「CUBE RALL(キューブ・ロール)」は、1996 年に開店した30代男性のジーニングファッションを扱うショップ。代表の藤村さんは店舗物件を探している最中に不動産業者から「正規の物件ではないが、保証金や家賃も安い掘り出し物がある」と勧められ、当時倉庫だった高架下の現物件に巡り合ったという。「原宿や表参道に出店すると保証金だけでン千万円と聞いていたので、この場所は好都合だった」と、当時を振り返る。天井高を利用してロフトを設け、商品のストックルームに充てるなど、構造上の利点を生かしている。

今でこそ渋谷駅から代官山・恵比寿に抜けるストリートとして多くの若者に利用されているが、最近までは「渋谷駅南口から246を渡ると、一般的な渋谷ではないような印象があり、交通量もハチ公前と比較すると数万分の1にも満たない、まるでマニアックな場所」なので、出店に関しては売上げの安定化とストリートの認知度が定着するまでの先行投資と解釈してきたという。藤村さんは「時間はかかるが、桜丘側にライブハウスがオープンしたり、JR新南口ができるなど、これから周囲の環境は活性化する方向に変わっていくだろう」と期待を込める。

CUBE RALL TEL:03-3464-8833

「CUBE RALL」の2軒隣に、今年10月6日、一軒のバーがオープンした。この店は店主の意向で「一切メディアで露出しない」という方針を貫いているが、高架下の壁面をそのまま利用した壁面が印象的で、渋谷駅周辺の「知る人ぞ知る」穴場になりそうな雰囲気を漂わせている。

やまがた CUBE RALL(キューブ・ロール)

さらに、バーの隣に昨年オープンしたのが、ストリートファッションを扱う「PHORGUN(ホリガン)」。実は渋谷駅から恵比寿に向かうにつれて構造上、高架下の天井高は低くなっており、この店の面積もわずか4坪しかない。オーナーの佐藤さんは、同店の前身であるスケートショップの店員であったが、経営者から店を引き継ぐ形で改装・改築を行い、開店にこぎつけたという。「ここはマイナーなストリートで、“チャレンジストリート”と呼ばれるほど、多くの店舗が出店して消えていったと聞いている。事実オープン当初、ウチの売り上げも芳しくなかった」と、佐藤さんは語る。“チャレンジストリート”という呼称は、猿楽町・代官山の一部の界隈でも使われており、興味深い。同店が軌道に乗るまで半年もかからなかったのは、「このビジネスは場所を問わない。人が来ない所でも人が来るような提案をすればいい」というコンセプトで、他店にない商品を集めたことによるもの。人気の高いストリートブランドの「ブラザー・フット」「ヘックス・アンチスタイル」「ポスト・オーバーオールズ」を中心に展開し、ストリート・ファッション誌で取り上げられることで10代~20代後半の顧客をつかみ、また地方からの来店も多いという。佐藤さんは高架下にあることも含めて「顧客にとって、自分だけが知っている店、という感覚があるようだ」と分析する。

PHORGUN TEL:03-3462-8229
PHORGUN(ホリガン)

一方、明治通りの並木橋のたもと、東急東横線の高架下では、メンズ・レディースのオリジナルウェアを扱う「LOLO(ロロ)」が独自の空間を展開している。天井高を利用した、余裕のある2階建て。1995年のオープンで、以前はギャラリーだった空間。家賃や保証金など資金的なこともあり、吟味して店舗物件を探している最中に現地を見て、すぐに出店を決めたという。同店デザイナーの合田さんは「高架下ということのデメリットはまったくなく、メリットばかり。既存の物件ではこういうハコにはなかなか巡りあえない。今は、ガード下が会社帰りのサラリーマンのたまり場という印象は若い世代にはもうない」と説明する。同店の水谷さんは「高架下という環境と洋服とのギャップが楽しい。多少朽ちた建物など、最初に見た瞬間、ああ、いい面(つら)していると感じた。外観とは異なり、中がきれいだったのも好条件だった。このような非日常的な環境も顧客に受けている要因のひとつだと思う」と、アーティスティックな側面から手ごたえを感じたという。

LOLO TEL:03-3400-7842
LOLO(ロロ)

さらに、東急東横線高架下、渋谷から代官山に向かう路線の途中、渋谷と代官山、代官山と恵比寿の分岐点に位置する場所に店舗を構えるインポートシューズ専門店の「SWEAR(スウェア)」(代官山)がある。オープンは1999年。線路がカープを描く真下に位置するため、道路から少し奥まった場所に店があり、独自の雰囲気を醸し出している。同店は大阪に本社を構えるヒットカンパニーの直営店。当初、旗艦店を大阪に出す予定だったが「フラッグショップとしてのインパクトを考え、東京進出を図った」と、東京マネージャーの佐伯さんは語る。東京進出に際しては、渋谷や裏原宿など物件を探したが、どこも家賃が高かったため、敢えて高架下を選んだという。開店とともに上京した佐伯さんは「当時は周りに店がなく、しかも右も左もわからない状況で、正直言ってびびった。でも、今となってはこんなにいいロケーションはない」と笑う。クラブなどで人気の高いイギリスのシューズ“SWEAR”(平均価格30,000円前後)は希少価値が高く、ファンは店を探してシューズを買い求める。「高架下なので、店内で音楽をガンガンかけることもできるのが嬉しい。また、この店の隣(ダスキンの営業所)の町名は“恵比寿”だが、ウチから“代官山”になっている。代官山という街のイメージも店舗展開に効果的だった」と加える。

SWEARS TEL:03-3477-7518
SWEAR(スウェア)

■渋谷周辺で開発実績を持つ高架下ベンチャーの挑戦

10月16日、駐車場として使用されていた東急東横線の渋谷~代官山の高架下に3つの店の複合施設「SUS= Shibuya Underpass Society」が誕生した。渋谷駅に近い側から、カフェレストラン「Planet 3 rd(プラネット・サード)」、テイクアウト専用デリ「Lunch to go(ランチ・トゥ・ゴー)」、ネットを導入し、ユーズドファニチャーの販売とギャラリーを兼ねるバー「Secobar(セコ・バー)」の3店舗が軒を並べる。トータルで92坪。3店舗を経営するコミュニティ・アンド・ストアーズのプレス・マーケティング担当、三小田(みこだ)さんは「店舗開発は、価値のない場所に価値を見い出す業態開発」と説明する。ちなみにこの場所は、東横線の終点間際に当たるため、電車が比較的スピードを落としている場所のため、いわゆる電車の通過音はほとんど気にならない。

同社のグループは、1999年「ワイヤードカフェ」(キャットストリート)、2000年「ワイヤードダイナー」を手掛け、渋谷周辺の業態開発ではすでに実績がある。三小田さんは「JR新南口が誕生し、流動人口も増えた。明治通りは丼屋やラーメン店が多く、女性が一人で気軽に入ることのできる店は少ない。特にお昼時の“ランチ難民”はかなり多く、街のかっこいい食堂を念頭に置いて店舗の開発にあたった」と説明する。「Planet 3 rd」の席数は90席。天井の高さやガラス張りの側面によって解放感が味わえる。ランチタイムの女性率は90%で、1日に2度訪れる女性客も少なくないとのこと。

「Planet 3 rd」と「Lunch to go」では、渋谷の環境づくりに貢献しようとする店と人々の間で使用される地域通貨「アースディマネー」を導入している。たとえばボランティアで渋谷川周辺の清掃をした人が「r(アール)」と呼ばれる貨幣を受け取り、「Planet 3 rd」に持っていくと、飲食代として使えるという仕組み。もともと渋谷川の環境を変えていこうというムーブメントがきっかけとなって始まったプロジェクト。地域通貨「r」の導入を推進した日本総合研究所創発戦略センターの嵯峨さんは「地域通貨という発想が先にあり、情報発信性の高い渋谷で展開しようと考えた。その中で、ローポテンシャルの場所をハイポテンシャルに変え、界隈性を重視して、店舗展開をはかるコミュニティ・アンド・ストアーズが手掛ける店の意見をフィードバックしてもらいながら、実験的にスタートした」と語る。地域マネー「r」が使用できる参加店は現在15店舗。店舗のエリアは渋谷南口エリアから桜丘・代官山までに及ぶ。これらの場所は、嵯峨さんによると「裏シブヤ、あるいは渋谷川周辺のリバーサイドエリアともいうべき一帯」として、大いに注目しているという。

アースディマネー

コミュニティ・アンド・ストアーズ代表の楠本さんは「飲食店として地域のことを掘り下げたコミュニティ形成に貢献したい」として、3つのポイントを挙げる。

  1. 界隈の面的なコミュニティ
  2. 趣味や意志で形成されるコミュニティ
  3. ビジネスコミュニティ

「オンライン上で形成された様々なコミュニティの活性化を図るためには、リアルなプラットホームが必要になる。そこから、ビジネスとして有形無形の価値を生み出すことができれば、さらに専門分野の人たちが集まることになる。時間がある時は食事をし、ない時は弁当を買って持ち帰る、夜はバーで酒を飲むなど、いろんなスタイルで利用でき、合体したものがSUS」と話す。複合飲食空間を「Society」と捉えたストアコンセプト(=ネーミング)に業態開発の自信を感じる。ちなみに同社では、渋谷駅前および周辺のいわゆる一等地には「全く関心がない」(楠本代表)。

Shibuya Underpass Society Planet 3 rd/TEL:03-5778-4103 Lunch to go/TEL:03-5778-4105 Secobar/TEL:03-5778-4571

SUSは、世界各国のクリエイターを対象にデジタル作品を募集している「Artdex Desiugn Contest 2001」の協賛しており、12月15~22日には「Planet 3rd」と「Secobar」でギャラリーイベントの開催も予定している。

SUS= Shibuya Underpass Society SUS= Shibuya Underpass Society

■個性的な商業施設が集積し、点から面に広がる「シブサン」に注目

コミュニティ形成の見地から、「SUS」の共同プロデュースを担った東急電鉄流通事業部事業推進部企画担当課長の金山さんは「SUSは代官山につながる部分。高架下そのものの不動産価値は高くないが、『だから物販にしても飲食にしても映えるビジネスがある』と、コミュニティ・アンド・ストアーズ楠本社長から提案を受け、共同プロデュースに望んだ」と説明する。「物が売れない時代には、特別な付加価値が必要。資産が賃貸向けでなくとも、“コミュニティ”というフックで価値を生み出すという仮説検証を行ってみたい」と、金山さんは加える。

「SUS」という実験的な展開が話題を呼び、東急電鉄に「高架下物件」に関する問い合わせが増えているそうだ。「高架下の物件はストーリー性もあり、注目を集めている。東急電鉄では渋谷だけでなく、全線で高架下の利用を考えている」(金山さん)と、今後も高架下に新たな商業施設がデビューする可能性は少なくない。頭上を電車が走るために発する騒音や揺れなど、ネガティブなイメージを「作ろうとしても作れない環境」とポジティブに解釈する、個性的なショップや飲食空間の出現を期待したい。

少し前まではひっそりとしたイメージの強かった「渋谷3丁目」界隈も、今年3月の「新南口」改札口の誕生で、にわかに人の流れが増えてきた。11月28日(木)には、新南口と直結してJR東日本が手掛けるビジネスホテル「ホテルメッツ渋谷」が誕生した。レストランやサプリメントショップのほか、リフレクソロジー、マッサージルーム、エステティックサロンを併設している。これまではこのエリアを分断していた東横線の高架下に「Shibuya Underpass Society」がオープンし、界隈に明るさが広がった。さらに、このエリアには「Fura」や「SIMOON」などのクラブやギャラリー「LE DECO」など、個性的な空間が点在している。「Shibuya Underpass Society」の登場でにわかに脚光を浴びる「渋谷3丁目(=シブサン)」は、渋谷の新たな情報発信エリアとして注目したい。

ホテルメッツ渋谷 Fura SIMOON
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