渋谷ヒカリエ(渋谷区渋谷2)9階の「ヒカリエホール」で6月30日、「TEDxTokyo2012」が開催された。
「TED(Technology Entertainment Design)」は、テクノロジー、エンターテインメント、デザインの3つの領域が一体となって未来を形作るという考えを元に生まれたカンファレンス・イベント。 「TEDx」は「TED」を母体として世界各国で開催されており、今回の「TEDxTokyo2012」には、東急電鉄がコアパートナーとして協力した。
今年のテーマは「Where Art Meets Science~科学とアートが交差する~」。「越境」「展望」「縁」「観」をテーマにした4つのセッションで、9時過ぎから18時過ぎまで、急きょキャンセルとなった医学博士・黒川清さんを除く34人(組)が「広めるに値するアイデア」をスピーチ。その模様はユーチューブを通じて、同時通訳付きで生中継された。
セッション1は、テノール歌手、ジョン・健・ヌッツォさんの「誰も寝てはならぬ」(プッチーニ作曲の歌劇「トゥーランドット」のアリア)で開幕。棋士、羽生善治さんは日常でも役立つ「三手の読み」をテーマにスピーチを展開。慶応義塾大大学院メディアデザイン研究科教授の稲見昌彦さんは自ら「透明コート」を羽織ってステージに登場し、研究中の透過テクノロジーを紹介した。マッキャン取締役のデイビッド・マッコーガンさんは、日本の若者を突き動かすモチベーションを採り上げ、加藤登紀子さんは反原発のメッセージとともに、この日のために作った曲「ニュー・レボリューション」を披露した。
音楽と自転車を融合させた新しいデバイスを紹介した「タンテーブル・ライダー」のパフォーマンスで幕を開けたセッション2。世界最高のデザインファーム「IDEO」のトム・ケリーさんは、クリエーティビティーを高めるための5つのアイデアを紹介。世界的ヨットマンの斉藤実さんは「諦めない」気持ちを呼び掛けた。資生堂在籍中に、育児休業者の職場復帰を支援する社内ベンチャーを立ち上げた社会起業家、小室淑恵さんは「夫の長時間労働こそが真の少子化の原因」と指摘。定時後の時間に育児、介護、健康維持に個人が主体的に動いていくことで、財政を使わずに社会問題を解決できると訴えた。
セッション3の幕開けは、オープンリールデッキが奏でる磁気テープのアナログな音とデジタル・サンプリングを融合させた「オープンリールアンサンブル」パフォーマンスが飾った。映画監督・河瀬直美さんは、自分の目で見たものを記録してくれる8ミリフィルムとの出合いを紹介。今年2月に亡くなった最愛の「おばあちゃん」の姿を収めたフィルムも紹介し、最後に「おばあちゃん」の言葉を贈った。「この世界はうつくしい」――。環境学者で森林セラピストの宮崎良文さんはバラの花束を手に登壇。予防医学的な側面からネーチャーセラピーを紹介した。知覚支援技術者・大木洵人さん、建築家・鈴木エドワードさんらもステージに立ち、テクノディリック・コメディー集団「白A」のパフォーマンスで締めくくった。
舞踏家・浅野瑞穂さんの「天女の舞」で始まったセッション4。ロードアイランドデザイン美術大学学長、アーティスト、コンピューター科学者の前田ジョンさんは紅白歌合戦、ガンダム、あしたのジョー、寅さんなどを引き合いに出しながら、日本文化をテーマにスピーチを展開。ロボット工学研究者・牛場潤一さんは、脳卒中で亡くなった祖父との別れなどを経て、脳卒中患者の脳が機械と触れあって脳が再び機能を取り戻すような機械に対するアイデアに行き着いたという。自身で開発したブレイン・マシン・インターフェースも紹介した。工学博士、空間情報科学者の柴崎亮介さんは、震災時における個人情報の有用性、活用法を提案。自身が手掛ける情報銀行も紹介した。
スピーチのトリには環境活動家・プラネットウオーカーのジョン・フランシスさんが登壇。27歳のときに「沈黙」することを決め、多くの事を学んだエピソードを披露。「沈黙の中で、お互いを見つけることができ、平和を見つけることができ、自分たちは平和の一部であることが認識できる」と結んだ。最後にドラムカフェジャパンが登場。聴衆も、個々に配られた太鼓をたたきながらセッションに参加し、会場全体にドラミングの輪が広がり、全セッションの幕が閉じられた。
併せて、渋谷ヒカリエ8階・クリエーティブスペース「8/(はち)」でもパブリックビューイングが行われ、100人以上が大型スクリーンを通じて会場の様子を見守った。
当日のスピーチの様子は一部を除き、ユーチューブで閲覧できる。