渋谷マークシティの連絡通路で一般公開されている岡本太郎の巨大壁画「明日の神話」の修復作業が4月16日午前中から始まった。
2008年11月、同所で一般公開して以来、毎年秋にNPO法人「明日の神話保全継承機構」を中心に、地元ボランティアの手によって壁画の清掃、修復・補強作業が行われている。昨年10月にも恒例の「すす払い」が、終電後の深夜から早朝にかけて計5日間にわたって実施されたばかり。
今回、修復作業を行う理由について、絵画修復家の吉村絵美留さんは「昨年のすす払い時にコンクリートのキャンパスと、その裏面に補強として貼っているアクリル板が、夏場の猛暑の影響から膨張し、復元時に接着した亀裂箇所の口が一部広がっていたのが見つかった」と話す。すす払い時にも処置を施したが、秋冬は気温が低く絵が縮みやすいため修復には向かない。一方、この時期は梅雨前で湿気が少なく、気温も20度前後と壁画の伸縮率が安定しているため、修復作業を行うには最適なタイミングだという。
主な作業内容は、壁画の損傷チェック、接合部分へのエポキシ樹脂充てんと同部分への補彩。幅30メートル、高さ5.5メートルの同壁画を全14ブロックに列で区分けし、ブロックごとに高さ約7メートルの足場一つを組む。吉村さんとスタッフの2人で、1日2ブロックのペースで作業を進め、全6日間で修復を完了する。すす払いでは1日約30万人が往来するといわれる同通路の交通の妨げを配慮し人目に触れない深夜に作業が行われてきたが、今回は「自然光」の下で補彩を施すため、あえて日中に作業が進められている。同エリアを行き来する通行人の中には、修復作業中の珍しい光景に足を止め、携帯カメラやデジカメを向ける姿も見られる。
岡本記念太郎記念館館長の平野暁臣さんは「設置から3年半を経て、最近では街の風景の中に壁画が自然と溶け込みつつあるように感じ、大変うれしい。常にいい状態で絵を見てもらいたいので、こうして面倒を見ていくことはとても大切なこと」と保全の意義を訴える。
昨年5月、6人組アート集団「Chim↑Pom(チン↑ポム)」が同壁画に原発事故をイメージさせる絵を書き足したことに対し、平野さんは「岡本太郎が生きていても、きっと怒らなかったと思う。若いアーティストが日本の未来を考えたときに、それをぶつける相手として岡本太郎を選んでくれたことはうれしい。岡本太郎は、まだ死んでいないし、遺跡になっていないことをあらためて感じた」と話す。
初日は、作品中央の「核爆発で骸骨が四方八方に激しく破裂する」箇所を重点に修復作業が進行。修復作業は9時~18時、22日(20日のみ除く)まで続けられる。