1980年代から現代にかけて、エイズと対峙(たいじ)したゲイのアーティスト8人の作品を取り上げた企画展「ラヴズ・ボディ 生と性を巡る表現」が10月2日、東京都写真美術館(恵比寿ガーデンプレイス内、TEL 03-3280-0099)で始まった。
同館事業企画部課長で、明治学院大学で講師も務める笠原美智子さんが企画した。笠原さんは、1998年に従来の「ヌード写真」を批判する立場から、幅広い身体表現の可能性を探った「ラヴズ・ボディ ヌード写真の近現代」展を開催。同展をきっかけに「エイズ問題」に関心を寄せ、以来12年にわたって「(この問題について)こだわり続けることになった」と振り返る。
80年代から現在まで、「多くの写真家・美術家がエイズで亡くなった」と笠原さん。会場ではゲイでHIVポジティブのアーティストから、エイズによる合併症などで故人となったアーティストまで、8人の作家による作品78点を紹介する。
ウィリアム・ヤンさんは、オーストラリアで中国系3世として生まれたシドニー在住の写真家。自身のルーツやゲイのセクシャリティーなどをテーマに多くの作品を発表し、同展ではエイズを発症した友人アランさんの2年間の闘病生活を記録した作品を展示する。写真にはヤンさんの実直なコメントも添え、「見ているものを死についての考察へと促す」(笠原さん)。
1953年インド生まれ、カナダ国籍のスニル・グプタさんは、ロンドンとデリーを拠点に写真家・キュレーターとして活躍する傍ら、当事者として同性愛嫌悪やHIVポジティブの人々への偏見をなくすための活動を続ける。「インドではエイズの被害は所得の低い貧しい人たちの問題」とグプタさん。一方で同性愛は比較的高い教育を受けた「中流以上の家庭に暮らす人々が主な当事者」といい、会場ではさまざまな立場から「ノーマルではないセクシャリティー」を自認する人々の肖像写真を展示する。
会場にはそのほか、2007年のベネチア・ビエンナーレで没後のアーティストとしてアメリカ館を代表したフェリックス・ゴンザレス=トレスさん、1990年にエイズであることを公表した自伝的小説「ぼくの命を救ってくれなかった友へ」を発表して話題を集めた故エルヴェ・ギベールさん、エイズ予防財団流動研究員の一人としても活躍するハスラー・アキラさんなどの作品が一堂に集まる。
笠原さんは「この展覧会の企画者たるわたしはゲイやレズビアンではないし、HIVポジティブでもない。それでも『忘却への抵抗を続けること』だけが、この展覧会を開催するすべての理由」と話す。「簡単ではないが、意味のある展覧会になっている」とも。
開館時間は10時~18時(木曜・金曜は20時まで)。月曜休館(月曜が祝日・振替休日の場合はその翌日、11月8日は開館)。入場料は、一般=800円、学生=700円、中高生・65歳以上=600円。12月5日まで。