自分の中に「仮想の画家」を設定して作品を描く気鋭アーティスト桑久保徹さんの個展「桑久保徹 海の話し 画家の話し」が現在、「トーキョーワンダーサイト(TWS)渋谷」(渋谷区神南1、TEL 03-3463-0603)で開催され、話題を集めている。
桑久保さんは1978(昭和53)年神奈川県生まれ。2002年に多摩美術大学絵画科油画専攻を卒業し、同年に東京都が主催する公募展「トーキョーワンダーウォール」に入選。実体験に基づいて制作したという、砂浜に大きな穴を掘って描く風景画シリーズで注目を集め、現在は「自分の中に架空の画家を設定し、その画家を演じながら画家と自身との『対話』の中で作品を描く」ユニークな方法で活動する。油絵具を厚塗りした「印象派」を思わせる「古典的なタッチ」と、現代的な感性で描き出す独自の世界観が高い評価を受ける。
大学在学中の作品から新作までの36点を一堂に紹介しながら、桑久保さんの10年間の軌跡をたどる同展。若手アーティストの発掘・支援・育成を行うTWSが、継続的に支援するアーティストを対象に昨年から開催するもので、今月11日には関連企画として、桑久保さんと「時代を見る目を持った同い年」(桑久保さん)という若手批評家の宇野常寛さんがギャラリートークを展開した。
立ち見も出るなど注目を集めた対談で宇野さんは「現代美術は専門外」としながら、桑久保さんの作品について「同い年ということもあって、見てきた風景が(自分と)似ている」などと話し、日本のポップカルチャーと現代美術とを比べるなどの自論を展開した。一方桑久保さんは、自身の作風について、「古典的なタッチをスタートさせたのは、現代美術好きの『お兄ちゃん』と、ルノワールなんかが好きそうな『おばちゃん』の両方が楽しめる作品ができないかと考えたのがきっかけ」と振り返った。
桑久保さんについて、TWSの今村有策館長は「若手の作品は公募展などでたくさん見ているが、古い手法を使う大半の若手は伝統や因習に『すくい取られている』。桑久保さんの作品には『新しいスタンスで、今でなければ描けないもの』が描かれている」と評価。「世界を舞台にしても、(鑑賞者に)作品を『読み取って』もらえるようなステージに来ている」と期待を寄せる。
開館時間は11時~19時(入場は閉館30分前まで)。月曜休館(祝日の場合は翌火曜)。入場無料。9月26日まで。