フランスを代表するアーティストの一人、ファブリス・イベールさんの街を取り込んだユニークなアート展「ファブリス・イベール たねを育てる展」が4月下旬より、ワタリウム美術館(渋谷区神宮前3、TEL 03-3402-3001)で開催されている。
イベールさんは、1997年に100年以上歴史を持つベネチアの芸術祭「ベネチアビエンナーレ」第47回で、フランス館をテレビ局として機能させ、そこで起きる出来事を作品にするというアイデアで最優秀賞に値する「金獅子賞」を受賞。これまでに環境保護をテーマにした作品や、科学者とのコラボレート作品など、多岐にわたる芸術活動を行っている。
同展は、「農業」をモチーフにさまざまな作品を発表する。同館2階は、ドローイングや絵画、立体オブジェなどを展示し、植物に対する提案を行う。エントランスにイベールさんが好んで用いるテディ・ベアーをモチーフにした「かかし」を設置。かかしはわらで作られ、大きさは約150センチ。83枚のドローイングは、同展準備中に日本で描かれたもので、イベールさんがユニークな発想をどのように発展させていくのかがうかがえる。
中でも目を引くのが、野菜や果物で作った人間のオブジェ。頭は発毛を促進させるカリフラワー、腰回りは筋肉の発達を促すバナナ、足は肌に良いキュウリなどで作られており、それぞれの部分に効果のある食物を用いた。マサチューセッツ工科大学のバイオテクノロジー分野で活躍するロバート・ランガー博士との共同研究で作った。野菜や果物は1週間で腐ってしまうため、同館の学芸員が週に1度、取り換えるという。
3階は、一面にススキを敷き草原を作る。扇風機で風を送り、ススキのにおいや音、風に揺れる植物の感触を、体で体験することができる。中央に設けられた細い通路は、頭部の分け目にも例えられているという。作品名は「そよ風」。
4階は、自然界で重要な小さな生き物を、そのまま作品として展示する。土を敷いた約1メートル四方の箱に約50匹のミミズを放し、土壌を耕す働きを観察する。透明な巣箱には、ミツバチ約8,000匹を入れ、屋外につながる円柱の通路を設ける。花粉を運ぶミツバチがいないと多くの植物は育たないということや、女王バチを中心にした社会性を見せる。壁面には、ニンジンが人間になるドローイングを描く。人間もニンジンも「細胞」というユニット(単体)によって構成されているという内容を、化学の視点からアプローチした。
作品は、館内を出て近くの空き地でも展開。壁面のコンクリートがむき出しになった建物跡地の土地を借り、畑を耕す。同館に展示するテディ・ベアーの「かかし」を立て、ハクサイ、ニンジン、ダイコン、トマトなど10種類の野菜を育てる。畑の土は、同地の土、肥料を混ぜた土、砂地の3種類に分け、それぞれで野菜がどのように育つかを見せる。場所は、周辺にビルが立ち並ぶ青山キラー通り沿いの神宮前3丁目交差点一角。面積は約150平方メートル。
開催時間は11時~19時(水曜は21時まで)。月曜定休。入場料は、大人=1,000円、学生(25歳以下)=800円。8月31日まで。6月17日からは、同館屋上で作品「ハーブ畑」を公開する。
アート展「ファブリス・イベール たねを育てる展」の青山キラー通り沿い野菜畑(関連画像)シャネル「移動式」アートプロジェクト-代々木に巨大パビリオン(シブヤ経済新聞)ワタリウム美術館