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人が動く、街が動く-開業目前!東京メトロ・副都心線「渋谷駅」の全容と未来

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副都心線を知る鍵はここに?-新路線開通で加熱するエリア間競争

渋谷駅前、明治通りの様子。この直下で「新渋谷駅」の工事が進む

 副都心線は、埼玉県南部の和光市から池袋を経て、渋谷に至る東京メトロの新路線。すでに開通済みの和光市−池袋間は、有楽町線として1983年までに運行を開始、6月の開業で「副都心線」に名称を改める有楽町新線(和光市−小竹向原間は有楽町線と線路を共有)は1994年に運行を開始している。

 今回の全線開業で開通するのが、西東京3大商業集積地である池袋・新宿・渋谷を1本につなぐ池袋−渋谷間の8駅。ほぼ全線にわたり明治通り直下を走ることになる「新路線」の開通は、これまで新宿や渋谷に出るために有楽町線、JRを乗り継ぐ必要のあった乗客にとって、乗り換えなしで都心に出られる新たな可能性を生むことになり、「素通り客」を食い止めようとする池袋を筆頭に、アクセス条件が向上する新宿や渋谷のエリア間競争をあおるかたちとなっている。

旧東急文化会館跡地に建設予定の高層ビル(イメージ)

 エリア間競争がさらに加熱するとみられるのが、開業から4年後、副都心線が東急東横線との相互直通運転をスタートする2012年。この乗り入れのため、渋谷−代官山間の大半が地下化。東急電鉄では、「接続駅」となる渋谷駅周辺で2012年に照準を合わせ、高層ビル建設計画を含む大規模再開発に着手。旧東急文化会館跡地で完成予定の複合高層ビルには東急百貨店が新店を出すことも明らかになっており、新宿、池袋との百貨店競争も勢いを増しそうだ。

 このように、新路線の両端を担う池袋、渋谷駅がそれぞれ埼玉南部、横浜エリアと都心部をつなぐ「玄関口」となり、乗り入れがスムーズになることで、各方面から訪れる乗客を逃すまいと争奪戦を繰り広げているのが、都心部で勃発した「エリア間競争」。4年後の相互乗り入れ開始で、競合である新宿への乗客流出を防ごうと東急電鉄は新渋谷駅を「今後グループの重要な拠点に位置付ける」と気を引き締めている。

最先端システムも導入-安藤忠雄さんデザインの新渋谷駅を詳細レポート

近未来的な空間が広がる改札付近の様子。ここからホームに下る

 今後の事業計画の「要」として東急電鉄も力を注ぐ渋谷駅周辺の再開発事業。2003年に閉館した駅東口の旧東急文化会館跡地では現在、副都心線との接続口となる新渋谷駅の建設工事が終盤を迎え、新駅の上には今後、地上33階建ての複合高層ビルの建設が控える。

 安藤忠雄さんがデザインを手がけたことでも話題を集める新渋谷駅の正確な総称は「東急東横線・東京メトロ副都心線渋谷駅」。通常の駅と比べこの駅が特殊なのは、駅の中心から池袋方面半分を東京メトロ、横浜方面半分を東急がそれぞれ管轄する「共同使用駅」のかたちをとる点。開業時点では乗り入れを行わない東急側にとっては、渋谷駅のみひと足早く開業する「前乗り」となり、力の入り具合がうかがえる。

【特徴1】 ラグビーボール状の巨大空間出現-「地宙船」とは?

ホームと改札フロアを縦に抜く吹き抜け。「地宙船」の中央に位置する

 新渋谷駅のホームは、明治通りの真下、田園都市線、半蔵門線のホームよりも深い地下5階。うち銀座線から池袋方面に約10メートルのところがホームの「中心」で、それを境に横浜方面が東急電鉄の事業範囲。ここに存在するのが、すでにさまざまなメディアで取り上げられ注目される、「世界的」建築家・安藤忠雄さんが構想を手がけた「地宙船」。

「ガラス繊維補強コンクリート(GRC)」で作られたダイナミックなモチーフ

 「地中の宇宙船」をイメージしたこの「地宙船」。駅構内に明確な目印などはないが、実はホーム中心から東急電鉄側の事業範囲内にすっぽりと収まっており、「副都心線渋谷駅」ではなく、「東横線渋谷駅」のシンボルとして構想されたもの。名称からは宙に浮かぶ空間のような印象を受けるが、ホームとコンコースの一部を縦に抜く吹き抜け構造と、駅の随所に見られる船の底や側面を思わせる丸みを帯びた近未来的なモチーフの集合から成る「架空」の船。

 「駅は街の顔。文化を創造する街、渋谷にふさわしく訪れた人々の心に残る駅を目指した」(安藤さん)というように、新渋谷駅では駅に足を踏み入れた瞬間、これまでの「駅」の概念をくつがえす空間が広がる。「船」のほぼ中央に配置された直径22メートルの巨大な楕円(だえん)吹き抜けは、ホームから改札までの3フロアをつなぎ、改札フロアからもホームを見下ろすことができる斬新な構造になっている。

ホーム頭上が「地宙船」の「底」となっている。写真奥は東京メトロの管轄

【特徴2】 世界でも類を見ない「エコ」な駅!?-自然換気システム導入

 一方で、渋谷ほど大きなターミナル駅で、多くの乗客が利用する公共の空間に「デザイン」は必要ないとする声も聞かれる。斬新な空間だけに、デザイン面だけが取り上げられがちだが、一見デザインだけに見える構造も、一つひとつ役割を担っているのが、この駅の注目すべきもう1つの特徴だ。

地上と地下空間をつなぐ巨大「換気口」。空気の対流で自然換気を促す

 駅では、世界でも珍しい自然の対流現象を利用した「自然換気システム」を導入。2012年に完成(一部をデッキなどの関連工事を除く)予定の旧東急文化会館跡地ビルとの境界に、地上から地下に抜ける巨大な空洞を設け、地下駅で最も環境負荷が大きいとされる地階換気の問題を大幅に解消する。

 クーラーやモーターなど大きな熱力を持ち駅に入ってくる電車に対し、いくつもの冷房を使い、こもった熱を冷やしていたのが従来の地下駅の換気構造。今回の駅では、あらかじめ地上と地下空間をつなぐ巨大な吹き抜け構造を採用したため、暖かい空気は上昇し、冷たい空気は下降するという自然の対流現象が起き、従来の「悪循環」を取り払うかたちに。機械に頼らないこの自然換気システムで、年間約1,000トンのCO2削減効果があるという。

 前述した地宙船内部の吹き抜け空間は、取りざたされるデザイン面だけでなく、ホームからの熱をコンコースに逃がすため、この換気システムにも一役買っている。また、吹き抜け構造を各所に採用したことで、地下空間にありがちな閉塞感や不安感を解消するような役割もあるという。

【特徴3】 放射冷房で「ヒヤッ」と感実現-地下駅特有の悪循環解消へ

 地宙船は、駅構内の「冷房装置」としても機能する。換気ダクトから冷風を流して空気を冷やす従来の地下駅に対し、自然換気システムを導入したため換気ダクトを装備しない同駅では、「放射冷房」という新システムを導入。放射冷房は、暖かい方から冷たい方向に流れる熱の性質に沿い、壁面などを冷やすことで体温が奪われる際に感じる寒さを利用するもの。鍾乳洞や山道のトンネルなどに入ったときに「ヒヤッ」とする感覚も同様の効果から起きる現象だ。

ホームに設けられた冷房設備の1つ。駅には「クーラーベンチ」も設置

 駅構内の随所に姿を現す地宙船のモニュメントにも、この放射冷房のシステムが隠されている。駅では船のモニュメント部分を含め、天井や床に冷たい空気や水を循環させる冷却マットやチューブを張り巡らせ、冷房効果を実現。渋谷の地下に、自然換気と放射冷房システムで省エネ効果を実現する「世界でも類を見ない」(東急電鉄)”エコ”な駅が誕生する。

 この巨大な地宙船は今年6月の副都心線開業時にお目見えすることになるが、駅から横浜方面に延びる線路は、当然のことながら封鎖されたまま。中央の吹き抜けから見下ろせるホームにも、同時点では電車は走らず、開業時は一部仮設のホームとして稼働することになるという。ホームと改札口の間にある「地下4階」フロアも当面は「換気用」の空間として使われ、乗客は足を踏み入れることができない。「先行開業」の未完成部分が見られるのも、この駅の特徴だ。

 東横線は今後、新渋谷駅から明治通りの下をくぐり代官山駅手前の踏み切りから地上に出て、代官山駅ホームの途中で現在線と結び付く計画。埼玉から横浜まで広域にわたる鉄道ネットワークの中でも「南北の接続点」として重要な拠点となる新生「渋谷駅」は、副都心線開業後もゆるやかに進化を遂げ、東横線との乗り入れが始まる2012年、その全容が明らかになる。

「地宙船」(写真=模型)はラグビーボール状。「人の心に残る駅」を目指す

副都心線開業で加熱するエリア間競争-広域渋谷圏の未来は?

 副都心線・池袋−渋谷間に開業する新駅は、渋谷から池袋方面に、「明治神宮前」→「北参道」→「新宿三丁目」→「東新宿」→「西早稲田」→「雑司が谷」。広域渋谷圏では渋谷駅のほか、ラフォーレ原宿などがある原宿・神宮前交差点近くに開業する明治神宮前駅と、これまで公共機関でのアクセスがバスのみに限られていた千駄ヶ谷付近に開業する北参道駅が、エリア内の駅に当たる。明治神宮前駅は、若い買い物客でにぎわう明治通り直下で、交差点のGAP前にもホームへの入り口が設けられるなど、若者だけに対象を絞れば、エリア間競争が騒がれる新宿・池袋にも劣らない商業集積地「原宿」のど真ん中に位置する。

原宿「神宮前」交差点付近でも工事が進む。若年層の取り込みは一歩リード?

 一方、北参道駅の開業で今後ひそかに盛り上がりそうなのが、これまで近隣の原宿や表参道エリアに比べ目立たない存在だった千駄ヶ谷エリアだ。高級ブランドや人込みを避け、隠れ家的スポットや喧噪感のない穴場カフェなどを探すカップルや若者客らが、池袋や新宿を避け、北参道駅に流れ着く可能性は十分にある。  開業を見据え、スターバックスコーヒーは今年に入り、ひと足早く駅付近に新店をオープン。渋谷区のコミュニティーバス「ハチ公バス」も今年2月から新路線「神宮前・千駄ヶ谷ルート」の運行をスタートしており、周辺の動きも活発になっている。

吹き抜け空間は「新宿三丁目」のホームにも出現

 各駅では渋谷駅と同様、最先端の技術も導入。改札付近などにデジタルディスプレーを用いた新たな案内板を設置するほか、地上に抜けるエレベーターも各駅に確保、上下のエスカレーターも充実させるという。伊勢丹、高島屋とそれぞれ連絡通路で直結する新宿三丁目駅にも、ホームとコンコースをつなぐ吹き抜け空間が出現する。

 渋谷・新宿・池袋の3エリアを結ぶ都会の大動脈、JR山手線・埼京線と並行して走る副都心線。「JR」vs「東京メトロ」の競合関係にも目が行くが、2012年の東急東横線との相互直通運転が始まれば、西武線・東武線と東急線を結ぶ壮大にして最強の「ブリッジ役」を担うことになる。同時に、1927年(昭和2年)の開業以来80年の長きにわたって渋谷のランドマークだった東急東横線・渋谷駅が地上から姿を消す。その時、人はどう動くか?街はどう動くか?渋谷の街がかつて経験したことのない大きな変化が押し寄せる。

旧東急文化会館跡地の様子。高層ビルには東急百貨店の新店も入る

副都心線開業で激化するエリア間競争-しなやかな変化を続ける広域渋谷圏、2008年はこう動く(特集)

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