特集

副都心線開業で激化するエリア間競争 
しなやかな変化を続ける広域渋谷圏、2008年はこう動く

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■副都心線開業で明らかになる新・渋谷駅構想

 東京メトロは昨年1月、今年6月に開業予定の新路線の名称を「副都心線(ふくとしんせん)」に決定したと発表した。同線は、渋谷-池袋間の8駅を結ぶ路線と、すでに開通している池袋-和光市の既存ラインをつなぐ都市高速鉄道として2001年に着工。明治通り直下を走る同線は、渋谷、新宿、池袋の3都市をつなぐことから、開通後は各エリア間競争の激化も予測される。

 現在工事が進められている新・渋谷駅は、安藤忠雄さんがデザインを担当、「地宙船」をイメージしたユニークな吹き抜け構造になることが明らかになっているほか、駅が建設される東口エリア一帯には、東急電鉄が進める旧東急文化会館跡地の再開発事業として、2012年までに高さ約180メートルの複合高層ビルが完成する予定。副都心線開業を機に、文化会館閉館(2003年6月)以降、息をひそめていた渋谷駅東口エリアが「再生」に向けて動き出す。

 一方、駅西口のマークシティ内連絡通路では、故岡本太郎氏が「原爆」を題材に描いた巨大壁画作品「明日の神話」の招致活動が進められており、年明け早々に絵を所有する岡本太郎記念現代芸術振興財団が視察に訪問。春までに広島、大阪の2カ所を含む3つの候補地から恒久設置場所を決定することが明らかになっており、今後の動向からも目が離せない。

新渋谷駅は「地宙船」をイメージ-安藤忠雄さんデザイン 渋谷・文化会館跡地の再開発計画-2012年完成へ 岡本太郎財団、渋谷「明日の神話」招致先を視察

■「北参道」駅、ハチ公バス新路線開通で注目される千駄ヶ谷エリア

 副都心線開通で渋谷-新宿間に新たに誕生するのが、「明治神宮前駅」「北参道駅」の2駅。鉄道では山手線、地下鉄では銀座線、半蔵門線各線で渋谷駅と結ばれている原宿、表参道エリアに比べ、アクセスの悪かった千駄ヶ谷周辺エリアにとって、とりわけ「北参道駅」の誕生は朗報だ。

 駅ができる明治通り周辺は、アパレル関係のオフィスなどが点在するものの、原宿の商業エリアからも離れ目立った施設などもない「中間」エリア。「陸路」では今年度中にも、渋谷区のミニ型コミュニティーバス「ハチ公バス」の3路線目となる「千駄ヶ谷ルート」が開通し、渋谷駅を起点に区役所、表参道、千駄ヶ谷を抜け、代々木までの間を往復するルートが完成するなど、アクセス面の条件が飛躍的に向上する。

 SNS国内最大手ミクシィは昨年8月、渋谷・道玄坂のオフィスから本社を明治通り「千駄ヶ谷小学校」交差点近くの新築ビル「住友不動産原宿ビル」(神宮前2)に移転した。同エリア周辺には個性的なバーやカフェ、インテリア店などのショップも多く、こうした企業の動向も相まって今後は「千駄ヶ谷」ではなく「北参道」として認知が広まる日も近いかもしれない。

地下鉄13号線の路線名が「副都心線」に決定-東京メトロ ミクシィ、本社を原宿に移転-明治通り沿いの大型新築ビル

■ヤマダ電機進出で激化する渋谷「家電戦争」、変わる文化村通り

 新駅誕生や東口の再開発にも注目が集まる渋谷駅周辺で、今年最も大きなニュースの1つとなるのが、「ヤマダ電機」の渋谷初上陸だ。家電量販チェーン大手のヤマダ電機は今年8月中の着工をめどに、渋谷・文化村通り沿いの一角に地下1階・地上7階の大型店「LABI SHIBUYA」を完成させる。出店するのは「SHIBUYA109」の隣接地で、敷地面積は1,366.39平方メートル。完成すれば「ビックカメラ」「さくらや」に続く、8フロア・延べ床面積8,858.87平方メートルの大型店が誕生し、駅周辺でのし烈な「家電戦争」が幕を明ける。

 文化村通りでは昨年10月、大型書店「ブックファースト渋谷店」が惜しまれながらも閉店、現在は別の複合ビル建設のため取り壊し工事が進められている。大型店の閉店と出店で景観も大きく変わる文化村通り。ヤマダ電機の進出で、SHIBUYA109と並び周辺のにぎやかさに拍車がかかることは間違いなさそうだ。

ヤマダ電機、渋谷「109」隣接地に8フロアの大型店出店へ 大型書店「ブックファースト渋谷店」が閉店-旗艦店は新宿へ

■「H&M」原宿進出で押し寄せる海外SPAブーム

 トレンドファッションをいち早く商品化し、低価格帯で売りさばく海外SPA(製造小売業)の中でも、今最も勢いを増すブランド「H&M」。そのH&Mが今年秋、「日本初進出」の看板を掲げ原宿に出店する。

 ヘネス&モーリッツ(本社=スウェーデン)発表の店舗完成イメージによれば、出店場所は明治通り「フォレット原宿」(2006年1月に閉館)跡地とみられ、現在同場所では香港の不動産開発・投資企業ヴェロックスグループが、10月中の着工を目指し工事を進めている。ビルは地上9階・地下1階で、H&Mのほか飲食店舗も出店する模様。

 原宿エリアには現在、神宮前交差点の一角に店を構える海外SPAの代表格「GAP」を筆頭に、原宿駅から徒歩2分の表参道沿いにはスペイン発SPA「ザラ」、ラフォーレ原宿内にはロンドン発の人気ブランド「トップショップ/トップマン」がそれぞれ出店、いずれも若者を中心に人気を呼んでいる。H&M進出の話題はすでに2008年の一大トピックとしてファッション誌などの誌面を騒がせており、進出後は海外SPAブームにもさらに拍車がかかりそうだ。

欧州カジュアル衣料「H&M」が日本進出-原宿に1号店 英「トッショップ」とケイト・モスさんの協業ラインが発売-200人行列

■注目の「紀ノ国屋」跡地と変ぼうを遂げる青山通り

 高級スーパー「紀ノ国屋」跡地を含む北青山の約1,000坪の土地では現在、大型商業施設の「AO(アオ)」の建設が進む。低層部と高層タワーの2棟で構成される同施設は、低層部=地下2階地上5階建て、高層タワー=地下2階地上16階建て。通常の商業施設では約25階建てに相当する約90メートルの高層タワーを16階建てにすることで、ワンフロアの高さにゆとりを持たせ、コンセプチュアルな高級ブランドなどの出店に対応する。今年11月のプレオープン時には、現在は仮店舗で営業する「紀ノ国屋」が地階にオープンを予定、2009年春のグランドオープンを目指す。

青山・紀ノ国屋跡地に大規模商業施設-名称発表も

 「AO」が面する青山通り(青山1丁目~宮益坂上)でも、昨年から景観整備工事が始まっている。工事は、SALF(渋谷・青山景観整機構)の提案により、沿道の全商店会・町会等の代表者らが2006年7月に締結した「青山通り街並み協定書」に基づくもの。基本カラーを「茶・ベージュ・グレー・白」にするほか、通りに面した建物の1階をガラス張りの店にするなどで、「青山通り」ブランドの確立を目指す。

 そのほか、広域渋谷圏内の一等地で広大な敷地を誇る青山学院も昨年、青山キャンパスの高等部校舎建て替えや大学校舎新築などを核とする再開発計画を発表した。外資系ブランド旗艦店が建ち並び、「表参道ヒルズ」の登場で揺るぎないストリートブランドを確立している「表参道」とクロスする「青山通り」も、着々と変ぼうを遂げつつある。

青山学院「青山キャンパス再開発」計画-今年度中に着工へ

■街全体でしなやかな変化を続ける広域渋谷圏の今2008年

 そのほか恵比寿では、東急不動産(渋谷区道玄坂1)が今秋、JR恵比寿駅前に新たな複合商業施設を開業し、1~2階には旧ビルのキーテナント「モンベル」が再入居するほか、3階~5階には東急不動産グループ直営のフィットネスクラブ「東急スポーツオアシス」の都市型旗艦店が出店を予定している。伊「デロンギ」世界初の複合店出店や路面店集積型の新商業施設「sarugaku」の登場で注目が集まる代官山エリアでは八幡通り沿いの「代官山パシフィック」の取り壊し工事が今月末まで行われ、その後に、来年6月の完成を目指して地上10階建ての複合ビルが建設される。

来秋、恵比寿駅前に新商業施設-東急不動産が開発着手 名物ビル「代官山パシフィック」取り壊し-複合ビル建設へ

 2007年は、「東京ミッドタウン」(六本木)、「有楽町イトシア」(有楽町)、「グラントウキョウノースタワー」(八重洲)の開業など、都心部エリアでは大型再開発案件の竣工ラッシュとなった。広域渋谷圏では、「表参道ヒルズ」(2006年)の開業以来、再開発案件では目立った大型案件はないが、全エリアにわたって商業の動きは活発だ。街全体がしなやかに変化を続けることにより、全体のシナジー効果を生み出し、一極集中的な他エリアの再開発の動きに対抗している。

 都心部の大型再開発案件が一段落を迎えた今年は、ソフト面=コンテンツでの実力が試される年になりそうだ。言い換えれば、渋谷を核に、原宿、青山、恵比寿、代官山などと緩やかな連携により強大な集客力を誇る広域渋谷圏が、その本領を発揮することができれば、再び集客力を高めることも可能となる。新たなアクセスとなる東京メトロ・副都心線の開業に注目が集まる。

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