工事は東急電鉄と東急建設が独自に開発した「STRUM(ストラム)工法」を採用。同工法は「用地確保が困難である」「短時間で鉄道の地下化を行う」「在来線の運行を妨げない」などの利点を持ち、今までに東急目黒線不動前駅付近立体交差事業や、みなとみらい線東白楽駅から横浜駅間の地下化工事などで成功した実績を持っているという。
今回の現場となる代官山駅付近は沿線に建物が密集し、仮線を設ける用地確保が困難であることから、地上営業線(東横線)の直下に東京メトロ副都心線につながる地下線を準備し、短時間(終電から始発まで)で地上線を地下線へ切り替えが可能な同工法が用いられた。
工事内容は、代官山駅ホームなどのレール高さを下げる「降下区間」、今まで使っていたレールの切断や仮設ホームを撤去する「撤去区間」、クレーン作業が困難な場所ではジャッキを用いて既存の地上線を持ち上げる「扛上区間」など計6ブロックに分業化され効率的に進められた。終電から始発まで、わずか3時間46分間、1200人の作業員を要して実行された「東横線の地下化切替え工事」の全容をレポートする。
|地下化切替工事ドキュメント 3.15-3.16
*20時30分ごろ、工事に先立って代官山駅付近道路の通行止めを実施(翌朝7時まで)。
*22時00分ごろ、現場から10分ほど離れた「恵比寿公園」(渋谷区恵比寿1)に工事作業員が集合し、各作業担当毎に説明が行われる。
*0時過ぎ、工事現場一斉に照明が点灯され、273メートル区間が暗夜に浮かび上がる。営業線が運行する中で既に大型クレーン車7台が各配置にスタンバイし、工事作業員も本格的な工事始動に向けて準備を進める。
*0時55分、約10分遅れで下り元住吉行き営業列車が代官山駅を出発。
*1時、最終の下り回送電車を見送った後、工事作業員が一斉に動き出し地下化切替工事が始まる。代官山駅ホームでは仮設ホームの撤去と既存の地上線の降下のため、多くの工事作業員が線路内に降りて作業を進める。
*火花飛ばしレールを切断する作業員たち。
*1時5分、渋谷第一号踏切から代官山駅方面に向かった付近と、代官山駅から渋谷駅方面に向かった付近の「撤去区間」では、今まで使っていた地上線のレールの切断工事が行われる。
*2時17分、「撤去区間」では、線路沿いの空き地や道路に設置した大型クレーン車で切断したレールをつり下げ、線路敷地外へ移動する作業が次々に進められる。
*2時22分、レールが取り除かれた箇所にはポッカリと四角い穴が開き、その下には新しい地下線が少し見え始める。
*2時25分、ジャッキを用いて既存の地上線を持ち上げる「扛上」が進められる。渋谷第一号踏切と代官山駅ホームの中間付近は線路沿いに住宅が密集し、クレーン車を設置することが困難な場所であることから「撤去」ではなく「扛上区間」となっている。
*2時31分、レール撤去作業が進み、従来の地上線の直下に新しい地下線が走っていることがよく分かる。
*2時46分、レールが乗っていた鉄製の土台も取り除かれ、新しい地下線で作業する工事作業員の姿もよく見える。
*2時50分、「扛上区間」では、(写真手前にある)地上線がジャッキアップされ、代官山駅ホームのレールとの高さにかなり違いが出てきている。
*2時58分、架線柱に上り、従来地上線の架線を外す作業に取り掛かる。
*3時2分、代官山駅の仮設ホームは完全に取り除かれ、従来よりも一段低い新しいホームが姿を現した。同時にホーム内の架線高さの調整作業も進められている。
*3時11分、取り除かれたレールは渋谷第一号踏切でトラックに積み込まれ次々に運ばれていく。
*4時、架線を新しい地下線へ下げてつなげる作業が進められる。
*4時17分、相直後は使われなくなる「渋谷第一号踏切」の両側にガードが設置された。
*4時20分、工事終了予定時刻だが、ホーム内の架線調整作業が続く。
*4時44分、鉄道や軌道の線路の保守のための保線作業が行われる。
*4時46分、「線閉解除(工事が完了し、列車運転を始める)」のアナウンスがコールされ、工事作業員一斉に線路外へ上がる。総工事時間3時間46分。
*4時51分、工事用の照明が消え工事現場が暗夜に沈む。
*4時54分、上り試運列車が中目黒方面から代官山駅に到着。
*4時56分、従来のレールが一部残る地上線の真下、新しい地下線を上り試運列車と下り試運列車がすれ違い走り抜けていく。工事作業員や関係者、工事の模様を見守る近隣の人々から成功を喜ぶ拍手が起きた。
*5時6分、約4分間遅れで下り元町中華街行き始発営業列車が渋谷方面から代官山駅に到着。地下化した東横線を一目見ようと早朝にも関わらず、鉄道ファンをはじめ、多くの人びとが出迎えた。 その後、ダイヤ通りに上り下り電車が続々と到着した。
この工事によって、東武東上線・西武池袋線から東京メトロ有楽町線・副都心線を経て、東急東横線と横浜高速鉄道みなとみらい線までが一つの路線でつながり、首都圏の広域的な鉄道ネットワークが実現した。その一方で、85年間にわたって愛されてきた地上駅舎の東横線渋谷駅、代官山駅~渋谷駅区間の地上線や高架橋、第一号踏切は姿を消すことになった。今後、高架線跡地の活用法にも注目が集まる。
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