原宿から「センセーショナル・ラブリー」発信−進化を続ける人気店
ブロンドに染めた髪にモコモコとした帽子、蛍光黄色のシャツにはピンク色のネクタイ——増田セパスチャンさんは、裏原宿エリアで13年以上にわたりポップで奇抜な雑貨を扱ってきた人気店「6%DOKIDOKI」(渋谷区神宮前4、TEL 03-3479-6116)のオーナー、ディレクターだ。小学生時代から「遊び場」はもっぱら原宿。ショップオーナーだけでなく、商品の企画やショーウインドーディスプレー、舞台表現などマルチに活躍する。
1995年、当時はまだアパレル関係の店もほとんどなかったという裏原宿エリアに最初の店を開いた。名前は「英語ではなく日本語。でも外国にも通用する『カラフル』なものを」(増田さん)と考え、「6%DOKIDOKI(ロクパーセントドキドキ)」に。ビルの3階だったこともあり、「実際に頻繁に人が訪れるようになるまでには1~2年かかった」(同)が、当時増田さん自身もよく通っていたというレイブ(大規模な野外音楽イベント)にも身に着けて行けるような、光りもの系などの商品を提案する中で、徐々に口コミが広がっていった。
ブレイクのきっかけの一つになったのが、人気歌手のカヒミ・カリィさんと映画監督のソフィア・コッポラさんが雑誌の取材で店に訪れたこと。「当時は店の中でも踊っていて、そこでコミュニティーができていった。商品と一緒にアートの作品なども展示して、今でもこういうクレイジーな店はここ以外海外にもどこにもないと思う」(同)と振り返る。
オープンから約10年、2005年には同じ裏原宿エリアで現在の場所に移転、ショップの上にギャラリーを併設するかたちで店をリニューアルオープンした。真っピンクの外観同様、ピンクや黄色、赤などポップな色を基調とした店内を埋めつくすように商品がずらりと並び、メリーゴーラウンド風の什器に薄紫色の馬、おもちゃ箱のようなガラスの試着室と、店は「カワイイ」を「体現」した空間そのもの。
10坪ほどの店内で扱うのは、独自に企画した商品7割と、国内からの仕入れ品3割。「昔はLAで買い付けた商品や古着なども扱っていた」(同)というが、リニューアルと同時にショップコンセプトを「センセーショナル・ラブリー」へと「進化」させ、より「とがった」商品をそろえるようになった。センセーショナル・ラブリーは「衝撃的なかわいさ、度を超えたかわいさ」などの意味。
オリジナル商品の中でもアイコン(象徴)的なものの一つが「リボン」をモチーフにしたアクセサリーシリーズ。平日、休日を問わず全国から訪れる来店客は「かわいい」と口にしながら商品を手に取っていく。「移転前は1つの空間にあったショップとギャラリーを別のフロアに分けることで客層をすみ分けし、より『とがった』商品を置くようになった。結果的に、最初は服にしか興味のなかった子たちが上のギャラリーフロアに行くきっかけにもなっている」(同)という。
6%DOKIDOKI
「カワイイ」のその先にあるものは?−原宿発「H.U.G.」イベントに潜入
■「気になる」かわいさが魅力!?−原宿「個性派カワイイ」大集結
オープン当初から「グローバル」な視点で「カワイイ」カルチャーを発信、その変遷を「原宿」の地で見てきた増田さんには「カワイイを『正しく』広げていきたい」という思いがある。「原宿のカワイイは、男性からの目を意識するシブヤ系と違い、昔から女の子たちが『自己実現』するためのツールだった。男性にモテなくても個性で目立とうとする。そこには好きな音楽や映画などと結び付けて『掘り下げよう』とする気持ちがあった」(同)。
増田さんが仕掛け人となり、昨年から「原宿クエストホール」(神宮前1)を舞台に次世代カルチャーを紹介してきた複合イベントシリーズ「H.U.G.」(=原宿アンリミテッドジェネレーション)の最新シリーズのテーマは「カワイイ」。9月23日に行われたイベントには6%DOKIDOKIの顧客をはじめ、全国から「カワイイ」ファッションに身を包んだ若者が集まり、ショップやメーカーなどが1日限定で出店したブースやステージでのトークショーなどを楽しんだ。
毎回、テーマごとに若手クリエーターをプレゼンターに迎える同シリーズの今回のゲストは、「プーリーズ」「コエダリアン」などの人気キャラクターの生みの親としても知られる元タカラ出身の「メルヘン・ヒットメーカー」タケヤマ・ノリヤさん。会場には、タカラのヒット玩具「こえだちゃん」を大人向けにアレンジしたコエダリアンのブースも登場。今年の夏に一般販売を開始し、「店頭に出るとすぐに売り切れてしまう」(タケヤマさん)ほどの人気という同シリーズについて「こえだちゃんで遊んだ世代の人にとっては懐かしいかわいさ。ドクロや眼帯などのモチーフを入れてアレンジしたことで若い世代にもファッション的に受け入れられている」(同)と、その人気を分析する。
ブースの中でも今回特に人気を集めたのが、今年9月大阪・梅田のキデイランド内に初の公式ショップを出店したばかりの「リラックマ」期間限定店。当日は大阪の店舗のみで扱う限定オフィシャルグッズを特別に原宿でも販売。イベント開始と同時に行列ができ、カレンダー形式のマグカップなど一部商品が完売。タケヤマさん発案のコエダリアンと同様、リラックマにもただ「カワイイ」だけではくくれない魅力があるのが特徴の一つだ。
リラックマの設定は、都内で働く25歳のOL「カオルさん」の家に勝手に住み着き居候している着ぐるみのクマ。背中にファスナーがあり、中身は謎。このほかに、年齢など明確なキャラクター設定はない。当日ブースでも人気ぶりを見ていた、リラックマ版権管理を行うサンエックス(千代田区)キャラクター事業部MD・広報宣伝担当の黒田政和さんも「かわいいだけでなく謎が多い部分が人気の理由になっている。自分なりのストーリーをユーザー自身が作っていけるのが魅力」と話す。
イベントではラメやラインストーンをふんだんに使ったメークや派手なアクセサリー、フリルスカートなどで着飾った「6%DOKIDOKIショップガール」バージョンの限定ドールも登場した女の子と猫の人形シリーズ「おでこちゃんとニッキ」も、リカちゃんやバービーとは違う一風変わったキャラクター設定を持つフィギュアの一つだ。
3年前、6%DOKIDOKIのリニューアルと同時にオープンしたギャラリー「LOV−LAB(ラブラブ)」のオープニング展にも参加した「ピコピコ」ことトムラアツシさんは、10年にわたり1点もののぬいぐるみを作り続けてきた。クマやウサギなどの典型的なぬいぐるみではなく、会場に置かれたどことなくキッチュで不思議な感覚の作品を目にした若い来場客たちは、ちゅうちょなく「かわいい」を連発する。
「海外の感覚の子ども向けの『かわいい』とは違って、日本の『カワイイ』は大人になっても男女関係なく自分に近い存在。素直にかわいい、というよりもグロテスクな部分や醜いものも含めて驚いてもらいたい」とトムラさん。トムラさんの作品を展示した「ラブラブ」ブースを今回取り仕切り、各国でぬいぐるみの企画展やワークショップを開いてきた「petite pisseuse」のMIOU(みう)さんも「気持ち悪くてもちょっとカワイイ。それが『気になる』かわいさにつながっている。海外の展覧会でもちょっと変わったぬいぐるみを見て『カワイイ』と言う感覚は同じ。手を差し伸べたくなるものに対していとおしさを感じる感覚に近いのでは」と口をそろえる。
「コエダリアン」公式サイト 「リラックマ」公式サイト 梅田に「リラックマ」初の公式ショップ−限定商品約20アイテムも販売(梅田経済新聞)
■「カワイイ」は世界を救う!?−日本発ガールズカルチャー、世界へ
イベント終盤のトークショーで、プレゼンターのタケヤマさんとともに増田さんが展開した持論は、増田さんが今年起きた中国四川大地震の被災地映像を見た際に感じた「カワイイの可能性」について。「被災者の子どもの1人が、寄付されたディズニーキャラクターの文具を見て笑った表情を見た時に『カワイイ』の力を感じた」(同)という。
今回のイベントでは、入場料のうち20円をNPO法人「世界の子どもにワクチンを日本委員会(JCV)」に寄付。予防可能な感染症を防ぐワクチン投与ができなかったために命を落とす子どもたちのため、募金をワクチンに変え現地に届ける活動を行っている同法人の活動現場を確かめるため、増田さんは自らカンボジアに出向き、この日のイベントでその様子を伝えた。
増田さんは来春にも「原宿・カワイイカルチャー」をテーマにした本を英訳版と同時に出版予定。来年は日本企業の米国法人がサンフランシスコに開く、アニメなど日本映画専門の大規模シアターコンプレックス「J-Pop Center」内のファッションフロアにも、ディレクターとして携わる予定。
増田さんは「オタク的人気ではない『カワイイ』の正しい姿を広めていきたい。日本のカワイイパワーに比べたら海外は断然『保守』。思い切ったカワイイも受け入れるキャパシティーのある街、原宿から日本のカルチャーを発信していく」と、すでにカワイイの一歩先を見据えている。
「H.U.G.」公式ブログ「世界の子どもにワクチンを日本委員会(JCV)」公式サイト
原宿で「カワイイ」がテーマの複合イベント−人気キャラ限定ブースも(シブヤ経済新聞)
流行発信地「シブヤ」から番組発信−NHK「東京カワイイTV」人気の秘密
今年4月、NHK総合テレビで新番組「東京カワイイTV」がスタートした。取り上げるテーマは、ファッションからメーク、ネイル、インテリアに至るまで「日本発信のガールズカルチャー」全般。番組では各週のテーマごとに、人やショップ、流行りモノなどあらゆる最先端の「カワイイ」ものに密着し、大人代表、俳優・沢村一樹さん、沖縄出身のシンガー安良城(あらしろ)紅さんらがナビゲーターとなり、カワイイの「今」を探っていく。
番組は、NHK総合が今春より、月曜~金曜の深夜枠で「トップランナー」「MUSIC JAPAN」など若者に人気の番組を集めて編成する番組シリーズ「EYES(アイズ)」の水曜版として放送。年代別・20代の視聴率は同局の深夜枠としては異例の高視聴率をマーク。東京の流行をチェックしようと番組に見入る地方の視聴者を含め、「苦手分野」とされる若い女性の囲い込みに成功。番組最後に視聴者から寄せられた手作り「カワイイ」グッズを紹介するコーナーなどへの投稿数も多く、増殖し続ける「カワイイ」パワーと比例するように、番組の好調も続いている。
NHK総合で、同番組の前身となる「東京カワイイ」シリーズの放映が始まったのは、2006年秋。ドキュメンタリー「NHKスペシャル(Nスペ)」や特番などの枠でガールズカルチャーを紹介する単発番組の放映を続けたところ、海外からも放映したいとのオファーが相次ぐなど、国内外双方からの反響が大きかったことから、この春ウィークリー枠での放映にこぎ着けた。
情報エンタ番組=「インフォテインメント番組」として、コアターゲットは20代ながらも、「海外や大人たちからの目線、カワイイのビジネス的な価値など俯瞰(ふかん)して見られるものを意識して作っている」(NHK制作局ディレクター・海保香織さん)という通り、流行などの基礎知識のない中年層にも分かりやすくカワイイの今を紹介。実際に「母親と一緒に見ている、という若い女性の視聴者も多い」(同)という。
第1回の放送から取り上げてきたのは、安くカワイイ「プチプラ(プチ・プライス)」もの(4月23日放送)、シューズなどを紹介する「脚カワ」ファッション(6月4日)、「ガールズメーク」(同18日)、「ゴスロリ進化系」(9月17日)などの幅広い「カワイイ」カルチャー。「ネタや情報は全く尽きない。例えば同じ『モチーフ』ものでも、スカル(ドクロ)を取り上げた後にはもう『お菓子』(アクセサリーなどで流行っている)モチーフが来ている。ファッションだけみても、春夏、秋冬などのシーズン以外にも目まぐるしく変わる。『新陳代謝』が早いのがカワイイ現象の特徴の一つ」(海保さん)。
取材では、取り上げた一つのテーマから別のネタを拾うことも多いという。取材対象は、実際にSHIBUYA109の前などで面白そうだと思った人に直接声を掛けて見つけることもある。日本人の若い女性だけでなく、ファッション好きな男性やショッピング目的で東京に訪れる外国人まで、その取材対象は幅広い。4月の番組スタートからこれまで取材を続けてきた中で、海保さんが取材した人に共通して感じているのは、「目の輝き」。「買う側も作り手側も、両方に共通しているもので、嘘がない」(同)と、「東京カワイイ」の「原点」に着目する。
10月1日放送予定の70分拡大スペシャルでは、渋谷、原宿エリアに買い物に来ていた100人以上に突撃取材した。中でも特に印象に残ったというパリから来た30歳の教師は、東京にいる間だけコスプレを楽しんでいるというフランス人。「目が輝いていた。いつまでも『女の子』でいられる国、と言っていたのが印象的だった」(同)と、国境を超えた「カワイイ」の魅力を肌で感じたという。
「『カワイイ』の世界は、B to C(企業から消費者)ではなくC to C(消費者から消費者)の感覚が強いと思う。マーケットリサーチして作るものとは違って、作り手側が『私たちだったらこれ着るよね』と言いながら作っている原始的な欲望が形になって見える世界。ビジネスモデルとしてここまで多様化に対応できるものはほかにないと思う」(同)。
衰えない「アラウンド30(アラサー)」世代の消費欲求にも象徴されるように、コギャル全盛期に10~20代だった世代が母親になっても「カワイイ」精神を忘れない時代。「海外人気の広がりだけでなく、ガールズ精神を持ち続ける年齢層の幅も広がってきている。その辺りのバラエティー感を含め、『東京カワイイ』でくくれるできるだけたくさんのジャンルを取り上げていきたい」(同)という。
番組では、渋谷・公園通り突き当たりに位置し、原宿エリアとも近接するNHKの立地も重要な要素の一つになっている。「渋谷の放送局、という自負はある。原宿でも渋谷でも、取材場所はほとんど徒歩圏内。これだけの流行発信地圏内にあって、NHKだけが空白地帯になっているのはもったいない」(同)と、今後は局内で視聴者向けのリアルイベントなども開催していく予定だ。
「東京カワイイ」シリーズを始めるきっかけにもなったファッションイベント「東京ガールズコレクション」の会場、国立代々木競技場第一体育館が局の目と鼻の先にあったことも刺激に。「『プチ』ガールズコレクションを目指したい。若い視聴者にとってNHKがもう少しなじめる場所になれば」(同)と話している。
NHK「東京カワイイTV」 東京ガールズコレクション、来春代々木で開催−2万人動員へ(シブヤ経済新聞)
米国人編集者が分析−「カワイイ」はファンタジーへの逃避ツール?
米ロサンゼルス出身で、90年代後半にカルチャー誌「コンポジット」(すでに休刊)のファッションエディターとして日本で働き始めて以来、編集者やディレクターとして活躍してきたティファニー・ゴドイさんは、昨年原宿のストリートファッションを取り上げた著書「Style Deficit Disorder」を出版した。すでに2万部近く刷り上げたという同著の反響について、「日本の現代ポップカルチャーに対する西欧からの強い興味が影響した」(ゴドイさん)とみている。
カラフルでポップな衣装を身にまとった「原宿ガールズ」を引き連れて歌った米人気歌手のグウェン・ステファニーさんや、ルイ・ヴィトンのマルチカラーモノグラムシリーズで一躍有名になった現代アーティスト、村上隆さんらの存在を例に挙げ、「『カワイイ』は日本の現代ポップカルチャーを表す上で独特な日本語」(同)と話す。
「カワイイ」が急速に普及した背景について「kawaii(カワイイ)は、外国人にとっても覚えやすく話しやすい日本語」(同)と、言葉そのものの使いやすさを要因の一つに挙げた上で「ほかのカルチャーが持っていないような無邪気さがある。戦争や経済不況などから逃避できる場所を求めて、日本のカワイイファッションやキャラクターなどが受け入れられている」(同)とカワイイ精神特有の世界観を分析している。
Tiffany Godoy 「Style Deficit Disorder」(myspace)
世界的に情報化が加速する中、「カワイイ」は今や世界の「共通語」になりつつある。「モテ」系の渋谷ギャル、「個性」の原宿キッズ、日本から飛び火した海外「カワイイ」ブームと、ジャンルや国境を超え広がる日本発ガールズカルチャーの勢いは止まらない。アニメや漫画などに続く日本独自のソフトパワーは増殖を続ける。