特集

SHIBUYA109が新たな戦略で挑む
渋谷メンズファッション事情

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■レディスショップを訪れる男性客の姿がフロア誕生の始まり

3月30日、神南のクラブで「渋谷系メンズファッション」をテーマに掲げる合同ファッションショーが開かれた。会場に設けられた特設ランウエイには、箔プリントやラインストーン、ダメージ加工などをあしらった「クール」「セクシー」「ゴージャス」系のアイテムが続々と登場し、集まった若者を盛り上げる。いずれもタイトなシルエットで、原宿・渋谷の「今」を体現したスタイルだ。

この日ショーを開いたのは、3月18日、渋谷駅前の商業施設「109-2」の5階にオープンした大型メンズフロアに店を構えるショップたち。このフロアには、SHIBUYA109のレディスブランド各店が新たに立ち上げるメンズブランドと、渋谷・原宿エリアで路面店などを展開する既存メンズブランドを中心に、新業態9店舗を含む、アパレル9店舗、シューズ1店舗、雑貨・アクセサリー・アンダーウェア各1店舗の計13店舗が出店している。

メンズフロアを立ち上げた背景について、施設を運営する東急モールズデベロップメント(道玄坂1、以下TMD)テナント企画部課長の中里さんは、「SHIBUYA 109の立ち上げ時は、メンズショップも入っていた。今回の試みが初めてのことではない」とした上で、「2?3年前から、レディスのショップに訪れる男性客が見られるようになったのがきっかけ」と話す。中里さんは、一昨年の秋頃から、SHIBUYA109のショップだけでなく、原宿の人気路面店などのリサーチに着手し、「テイストや細身のシルエットなど、レディスとの共通項を感じ手応えを感じた」という。その後、「エスペランサ」(シューズ)など109の人気ブランドを中心に、メンズブランドの立ち上げを提案したところ、いずれも反応が良く、同フロアには最終的に5つの「109発」メンズブランドが揃った。ここ数年、国内外で起きている「メンズファッション・ブーム」の流れもあり、すでに発信側の「思い」は十分だった。

109-2

■人気読者モデルを起用したセクシー系ブランド

開業にあたり、同社が集中的に広告を打ち出したのは、「渋谷系メンズファッション」を身に付ける若者男性の間でバイブルにもなっている雑誌「メンズエッグ」(大洋図書)。「今の渋谷」を体現する「ギャル男」系人気読者モデルを多く抱える雑誌とあって、フロアにとっても同誌の影響力は大きい。実際、109-2メンズフロアに出店したショップの中でも、同誌の人気読者モデルを全面に押し出し、デザイナーやモデルに起用している店は少なくない。「リップサービス」「ジャッシー」などのレディスブランドをSHIBUYA 109ほかで展開する、ジョー・インターナショナル(円山町)が立ち上げた新業態「ラガス バイ リップサービス」もそのひとつだ。同社は、時代性やブランドカラーに合わせ、遠藤裕美さん(リップサービス)や渡辺かおるさん(JSG)など現役で活躍する人気読者モデルを看板モデルやデザイナーに起用し、販促に結びつけてきた。今回、新ブランドに起用した奈良県出身の津谷友太さんについて同社広報の長田さんは、「会社に訪れる女の子の読者モデルたちに混じって、よく会社に遊びに来ていたのがきっかけ。一目見て感覚がいいと思った」と話す。

黒をベースに赤のシャンデリアでポイントを付けた約10坪の店内には、109系ブランドの中でも「クールで大人っぽい」印象のレディスブランド「リップサービス」と同様に、「クール・カリビアン」「ミリタリー」などのテイストをメーンに打ち出したセクシー系アイテムが並ぶ。紋章風の箔プリントを使ったロングTシャツやロック調の鋲を打ったダメージ加工のデニムなどの商品の中には、一点物も多く含まれており、津谷さんのアイデアも随所に散りばめられているという。価格帯は、トップス=6,800円~16,000円、パンツ=128,00円~ほか。人気の読者モデルは、ルックスはもちろんのこと、私服などのファッションセンスが問われる存在。メンズ版「カリスマ店員」が誕生する日も、そう先のことではなさそうだ。

ジョー・インターナショナル

■スピードとリーズナブル感で対応力を高める商品づくり

「読者モデルなどの看板は立てない。モノで勝負したい」。そう言い切るのは、7年前にオープンした「シルバーバレット」をはじめ、「アーウィン(AWIN)」など、原宿の路面に5つのメンズショップを展開するパワーボム(神宮前6)広報担当の奥村さん。同社は109-2のメンズフロアに、初の施設内ショップとして「シルバーバレット・ミダス」を開いた。売場面積=約15坪という限られた空間で独自色を打ち出すために、商品は路面店で最も人気のあるブランドのひとつ「ミダス」のみに絞ったのが特徴だ。メーンブランドとして同ブランドを選んだ理由について奥村さんは、「時代性と合っていて常に人気が高い。ほかのブランドの商品と並べるよりも、ひとつに絞った方がブランドの良さを活かせると思った」と話す。

2004年秋にデビューした「ミダス」は、「ロック」「ミリタリー」をベースに、今シーズンはラグジュアリー感、チープ感をミックスしたスタイルを打ち出している。商品は、「早ければ企画段階から約1カ月で上がってくる」(奥村さん)というように、その時々の流行に合わせた柔軟な回転を行うほか、ジーンズの中心価格が1万円台前後という値頃感のあるものを中心に揃えている。「いいものを高く作るのは簡単。若い人に向けて、いかにいいものを安く作るか、ということを意識して作っている」(奥村さん)。「流行に敏感な客層」のニーズをできるだけ早くキャッチし、リーズナブルな価格帯で提供することが購買意欲を高めるポイントだという。ショップでは、限定商品として、ラインストーンや箔プリントを使うなどしたアイテムも取り扱う。

今後の展開について奥村さんは、「ユーザーは変化もするし、年齢も重ねる。客の成長に合わせ幅広い客層に対応する商品づくりを目指したい」と話す。また、単独店ではなく、テナントとして出店したことで、「皆が一緒になってフロアを盛り上げていくことが重要」とも話していた。

パワーボム

■「見せパン」を意識したMDを展開するアンダーウエア専門店

109-2のメンズフロアの中で、約4.5坪と小規模ながら、ひときわ目立っていたのが、メンズ・アンダーウエアを専門に扱う「クルーズ・アンダーウエア」だ。店舗の片側半分を占めるスクリーンに洋画を映し出し、アンダーウエアを入れた筒状のプラスチックケースを並べた店内からは、下着専門店というイメージはない。同ショップを手掛けるのは、「メンズエッグ系」セレクトショップ「メイヘム」を同じフロアに出店し、若者男性を中心に人気を集めるECサイト「アクセルスパンキー」を運営するワールドコンクエスト(神南1)。「メンズエッグ」元読者モデルの照井憲宇さんが2003年4月に立ち上げたメンズファッション専門のITアパレル企業だ。

ファイヤー通り沿いにオフィスを構える同社は、従業員数38人、平均年齢が約22歳(2006年3月現在)の若い会社で、中には10代のデザイナーもいるという。「『クルーズ・アンダーウエア』の立ち上げは、109-2に出店が決まった昨秋。自社デザイナーのほか外部で活躍するフリーのデザイナーもメンバーに加え、ブランドカラーやコンセプトの打ち出し方を固めていった」と話すのは、自身も21歳という年齢で、複数のブランドの企画・管理を担当する瀬谷さん。「誰かに見せたいパンツ=見せパン」をコンセプトに、「作り手側もユーザーも楽しめるもの」という意味を込めた「楽園」というテーマが固まったのは今年に入ってからだったという。オリジナル商品は立ち上げ時で、色違い含め全26型。プリントものが中心で、「ハワイ・カリブ」「ジャングル・サファリ」「L.A.」「ルート66」などテーマ別の商品と、迷彩柄など「売れ筋」の商品がある。ほかにも、パステルトーンのリブが付いていたり、Tシャツでも使われているようなプリントがあしらわれていたりと、カジュアルな商品を揃えているのが特徴だ。サイズ展開は、女性にも対応するSサイズとMサイズの2展開で、価格は、3千円台~4千円台が中心となっている。

現在ショップでは、スクリーンでジョニー・デップ主演の「パイレーツ・オブ・カリビアン」を流し、スカル・モチーフの飾りを置くなど、「カリブ」をテーマにした空間演出を行っている。今後ワールドカップの時期が迫ると、映像をサッカーの試合映像に切り替え、各国のユニフォームをポップにアレンジした商品をメーンに置くという。こうした動きは、「テーマ毎に店舗・商品を変えていくのが『クルーズ』の売り」(瀬谷さん)というように、普段あまり表に見えない「下着」だからこそ成せる戦略とも言えそうだ。オリジナル商品は1カ月で6型を目標に展開するほか、店内ではインポートなどのセレクト商品も約3割の構成で取り扱う。プレゼントとしての利用も見込み、今後は露出媒体も「メンズノンノ」「スマート」などのストリート誌まで広げていきたいという。また、瀬谷さんは、「ミーハーなだけではなく自分が見ていいと思うものを買える『代官山が縦になったようなフロア』にしていきたい。『クルーズ』がその起点になれば」と話していた。

ワールドコンクエスト

■市場活性化に欠かせない SHIBUYA109 の強烈な成功体験

今回のフロア改変で、運営会社のTMDは施設全体の名称を「109-2ジュニアステーション」から「109-2」へと変更し、それに伴い看板やロゴ、ファサードなども一新した。近年の109-2人気はここ数年、「ナルミヤインターナショナル」を中心とするジュニア系ブランドが牽引してきたという印象が強い。ジュニアとの連動については、「フロアとして独立している。全く別世界と考えている」(中里さん)という。そうした考えには、一つのファッションジャンル創出において、109が過去に独自の成功体験を持っていることが背景に感じられる。

バブル崩壊の影響で小売業全体が落ち込んでいた1995年、SHIBUYA109は「ラブボート」「ミジェーン」など地下1階の「セクシー系ファッション」と呼ばれるショップが人気だったことから、10代後半~20代前半のヤングレディスにターゲットを絞り込む戦略をスタートさせた。大型のCDショップやスポーツショップなどに代えてシーズン毎にフロア改変を行い、施設全体がヤングレディスに特化したファッションビルへと変化を遂げていった。1997年頃から、「ココルル」「エゴイスト」など「109系」と呼ばれるショップが出現。当時、国民的アイコンだった安室奈美恵さんのファッションを真似する「アムラー・ブーム」をはじめ、各店舗ではすでに「看板」となっていたショップスタッフが「カリスマ店員」として注目を集めるようになるなど、メディアと連動した一連の動きも後押しし、SHIBUYA109は「ギャル系」と呼ばれるセクシー系ファッションの聖地として、新たな地位を確立していく。その後も「マウジー」「スライ」「リップサービス」など「109発」のファッションブランドが次々に誕生するなど、聖地「109」のパワーは健在だ。

「109-2」のメンズフロアがオープンしてから約1カ月が経過し、売り上げは予想の約150%と好調な滑り出しで、今後1年間で10億円の売り上げを見込むという。今秋には、6階もメンズフロアへとリニューアルすることがすでに決まっている。新フロアの構想について中里さんは、「109-2の売りはあくまでも『渋谷系』。テーストは変えない」と言う。渋谷エリアでの小売りベースではこれまで、「ビームス」「シップス」「ロイヤルフラッシュ」などの路面店はあっても、109-2のようなメンズフロアは存在しなかった。同フロアの強みはここにある。「あえて言えば、秋のフロア改変では『プライスの幅を広げる』のがひとつのテーマ」(中里さん)というように、大枠の路線を変えず、質や商品展開で幅を持たせるのが狙いだ。

原宿のファッションビル「ラフォーレ原宿」でも、2005年秋よりメンズ拡大路線を大きく掲げている。国内外を通じたファッション全体の「メンズ・ブーム」の流れを汲み、メンズファッション誌の創刊も目立ってきた。「渋谷系メンズファッション」も例外ではない。2006年4月20日には、「メンズエッグ」のお兄さん版「メンズエッグ・ビター」(大洋図書)が創刊されるほか、今後も渋谷系ファッションを対象にしたメンズ誌の創刊ラッシュが続きそうだ。こうした一連の動きの中で、「ギャル男」層だけでなく、一般のメンズユーザーも足を運べるフロアへの成長は、対象となる潜在客がファッションについてどこまで主体性を持つかという点が鍵になる。

「SHIBUYA109」のレディスショップが、各店・各ブランドの個性を熾烈に競い合って市場を拡大してきたように、店やブランドが顧客と一体になり、109-2という絶妙な競合環境の中でそれぞれの個性を打ち立てていくことが、渋谷系メンズ市場の活性化には欠かせない。

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